ブランドの個性を守りながら、信用を生かす。アーカーの「保証付きブランド戦略」を解説
みなさんこんにちは、広告代理店「でもやるんだよ!」のメルマガ運用担当です!
今回は、デービッド・アーカーのブランド理論から、「保証付きブランド」と「エンドーサー」という考え方を取り上げます。個別のブランドを育てたいけれど、すでにある企業の信用も活用したい。新しい商品を展開したいけれど、既存ブランドが持つイメージまで変えてしまいたくはない。こうした課題を考えるうえで、参考になるのがブランド同士の役割を分けるという発想です。
重要なのは、すべてを同じブランド名にするか、完全に別のブランドとして展開するか、という二者択一ではないことです。個別ブランドの独自性を保ちながら、別のブランドが背後から信用を支える。その関係をどのように作るかが、今回のテーマです。
なお、この記事に登場する企業事例は、書籍で紹介されている当時の説明に基づいています。また、ここでいう「保証」は、ブランドが約束する品質や価値を、別のブランドの信用によって裏づけるという意味です。
01この記事の要約
保証付きブランドとは、独自の特徴やイメージを持ちながら、別のブランドによって信用を裏づけられるブランドのことです。その信用を与える側を、エンドーサーと呼びます。 エンドーサーの基本的な役割は信頼性を付与することですが、強いブランドであれば、商品を選ぶ理由にも影響し、「小さなドライバー」として働くことがあります。
この記事では、まず保証付きブランドとエンドーサーの役割を整理し、つながりを目立たせずに信用を支える「シャドウ・エンドーサー」を解説します。そのうえで、英国の菓子ブランド研究、ホバートとメダリストの事例、個別ブランドから組織ブランドへ信用が返ってくる関係、保証の表現によって変わるブランド間の距離について見ていきます。
02保証付きブランドとは、独自性と信用を両立させる仕組み
ブランド戦略は「一つにまとめる」か「すべて分ける」だけではない
ブランド・ポートフォリオ戦略は、個別ブランドをそれぞれ独立して展開する方法や、マスター・ブランドのもとにまとめる方法だけに限定されません。その間には、保証付きブランドやサブブランド、共同ブランドなど、ブランド同士の関係を調整するための選択肢があります。
そのなかでも保証付きブランドは、個別ブランドに十分な自由を持たせながら、別のブランドとの関係によって信用を与える考え方です。書籍では、ランコムの「ミ・ラ・ク フレグランス」が例として紹介されています。ミ・ラ・クは個別の製品ブランドであり、ランコムは、その製品が宣伝文句どおりのものであることを裏づけるエンドーサーです。
ミ・ラ・クはランコムと完全に無関係ではありません。しかし、ランコムのイメージをそのまま繰り返すだけの存在でもありません。製品独自の連想や、ランコムとは異なるブランド・パーソナリティを発展させる自由がある。信用は共有するけれど、個性まで同じにする必要はないという点が、この構造の特徴です。
購買を動かす「ドライバー」と、信用を与える「エンドーサー」
保証付きブランドを理解するうえでは、ドライバーとエンドーサーの役割を分けて考えることが重要です。ドライバーは、顧客がその商品を選ぶ際に主役となるブランドです。一方、エンドーサーは、その商品が約束している品質や機能について信頼性を与える役割を担います。
書籍では、下着ブランドのヘインズが、ストッキング製品の「リバイタライズ」を保証する例が紹介されています。リバイタライズは、日々の足の調子や健康を促進するように設計された製品です。この場合、顧客が主に関心を持っているのは製品の機能的な便益であるため、選択の主役となるドライバー・ブランドはヘインズではなく、リバイタライズになります。
一方、ヘインズは、「リバイタライズが説明している品質や機能は信頼できる」という裏づけを与えます。選ばれる理由の中心は個別製品にあり、その説明を信じるための支えとして組織ブランドが存在するわけです。
強いエンドーサーは「小さなドライバー」にもなる
ただし、エンドーサーは常に裏方に徹するわけではありません。強力なブランドであれば、保証付きブランドのイメージそのものに影響を与え、購買を後押しする「小さなドライバー」として働く場合があります。
書籍では、ラルフ・ローレンによるブランド保証が、ポロに対してファッションの先端にあるというイメージを与える例が挙げられています。この場合、保証する側のブランドは、単に「品質は大丈夫です」と伝えるだけでなく、個別ブランドをどのようなものとして受け取るかにも関わっています。
カルバン・クラインと「オブセッション」の例も同様です。書籍では、カルバン・クラインによる保証があることで、オブセッションという名前が、単なるお遊びや、ちょっとした自己表現として受け取られると説明されています。保証するブランドの存在によって、個別ブランドの意味づけや印象まで変わるということです。
つまり、エンドーサーの役割は、基本的には信頼性を付与することですが、それだけに限定されません。何を約束する商品なのかだけでなく、その商品を選ぶことがどのような意味を持つのかにも、影響を与える場合があるのです。
03「シャドウ・エンドーサー」は、つながりを目立たせずに信用を支える
組織の信用が、個別ブランドのイメージを薄めることもある
組織ブランドとのつながりを強く示せば、必ず個別ブランドにとってよい結果になるとは限りません。背後にある企業の信用は安心感につながる一方で、その企業との結びつきが目立つことで、個別ブランドならではの魅力が薄まる場合もあります。
書籍では、レクサスとトヨタの関係が例として説明されています。レクサスは、トヨタの財務的な強さや名声によって下支えされており、その関係を知ることで安心する人もいる。しかし、トヨタとの目に見えるつながりを強めすぎると、レクサスが提供する自己表現便益が薄まってしまうという指摘です。
ここでいう自己表現便益とは、単に商品が便利であるという機能面だけでなく、そのブランドを選ぶことで、自分の価値観やあり方を表せるという側面です。背後の企業の信用を得たいからといって、個別ブランドが持つこのような意味まで、組織ブランドに置き換えてしまってよいわけではありません。
そこで登場するのが、シャドウ・エンドーサーです。背後の組織との関係を前面に出しすぎず、個別ブランドのイメージに与える影響を抑えながら、ブランド保証の便益を提供します。組織とのつながりを顧客の意識の中心に置かないことで、情緒的便益や自己表現便益を維持しようとする考え方です。
信用が働く相手は、商品を買う顧客だけではない
シャドウ・エンドーサーが影響を与える相手は、購入者だけではありません。書籍では、小売業者、ホテルのコンシェルジュ、投資家、広告主など、顧客以外の関係者にとっても、背後の組織とのつながりが重要になると説明されています。
たとえば、ドッカーズとマウンテンデューは、それぞれリーバイ・ストラウスとペプシとの連想によって、小売業者からより多くの関心を集めていたと紹介されています。また、シカゴを本拠地とするレタス・エンタテイン・ユーがシャドウ・エンドーサーとなっていた際には、傘下のレストランが主要ホテルのコンシェルジュに勧められることが多かったとされています。
さらに、ディズニーがタッチストーンのシャドウ・エンドーサーであることは、質の高い脚本を確保することに役立っていたと説明されています。バイアコムについても、CBSテレビ、ブロックバスター、サイモン&シュスター、パラマウント・ピクチャーズ、ニコロデオンなどのグループ企業に対する投資家や広告主の態度に、その存在が影響していたという事例が挙げられています。
ここから読み取れるのは、ブランド間の関係を考える際には、「消費者にどう見えるか」だけでなく、「取引先や協力者にどう受け取られるか」も分けて考える必要があるということです。顧客には個別ブランドの独自性を伝えながら、別の関係者には組織の信用が働く。ブランドのつながりには、そのような複数の役割があります。
04ブランド保証は、実際にどのような価値を生むのか
英国の菓子ブランド研究で示された違い
書籍では、エンドーサーが実際に差異を生み出すのかを検討した、英国の菓子ブランドに関する研究が紹介されています。この研究では、9種類の菓子製品を顧客に評価してもらい、どの企業ブランドが保証するかによって、評価にどのような違いが生じるかを調べています。
保証する側として用いられたのは、キャドバリー、マース、ネスレ、テリーズ、ウォールズ、そして実験の比較に使う架空ブランドの計6つです。書籍の説明によれば、研究で取り上げられた実在企業によるブランド保証は、架空ブランドによる保証と比べて、いずれも明らかに大きな価値を付加していました。
そのなかには、アイスクリームという異なる製品カテゴリの連想を持つウォールズも含まれていました。少なくともこの研究では、同じ菓子カテゴリの企業でなくても、実在する企業ブランドの保証が、架空ブランドとは異なる評価につながったということです。
重要なのは、そのカテゴリにおける信頼性
研究のなかで最も高い評価を受けたのは、キャドバリーでした。書籍では、キャドバリーが広い範囲の主要菓子製品を一貫して保証していたと説明されています。第2位はマースでしたが、保証できていた菓子製品の範囲は限られていました。第3位のネスレは、広範な製品を保証していたものの、個々の製品へのインパクトは総じて弱かったとされています。
この研究の結論として示されているのは、ブランド保証は有効であり、特に、その製品カテゴリにおいて信頼性の高い組織による保証が重要だということです。
この点を踏まえると、エンドーサーを考える際には、単に名前が知られているかだけでなく、「その商品について、何を信頼されているブランドなのか」を見る必要があります。ただ有名であることと、特定の品質や価値を裏づけられることは、同じではないからです。
なお、今回の書籍の該当箇所には、研究原典の詳細や効果の大きさまでは掲載されていません。そのため、この結果を「企業名を添えれば、あらゆる商品の売上や利益が必ず伸びる」という意味に広げず、紹介された研究における消費者評価の結果として捉えることが大切です。
05同じ名前でも、「製品ブランド」と「組織ブランド」は分けて考える
ホバートとメダリストの事例
保証付きブランド戦略を機能させるためには、組織ブランドの役割を理解する必要があります。書籍では、その例として業務用ミキサーのメーカーであるホバートが紹介されています。
ホバートの製品を選ぶシェフのなかには、キッチンでは最高のブランドだけを使いたいと考える人がいます。そのような顧客にとって、ホバートを購入することは、単にミキサーの機能を得るだけではありません。「自分は最高の道具を選ぶ人間である」という、大きな自己表現便益につながります。
一方、同社は、海外メーカーが対象としていた低価格品セグメントの成長にも対応しようとしました。そこで立ち上げたのが、「メダリスト」という別のブランドです。メダリストには、小さな活字でホバートによる保証が書き入れられました。
その結果、市場には二つの役割を持つホバートが存在することになります。一つは、顧客が製品として選ぶ「製品ブランド」のホバート。もう一つは、メダリストの信用を裏づける「組織ブランド」のホバートです。同じ名称でも、担っている役割が異なるわけです。
製品の個性を守り、組織の信用を別のブランドに生かす
書籍では、この構造の意味を二つ挙げています。
一つ目は、製品ブランドと組織ブランドを別個のものとして扱うことで、製品ブランドとしてのホバートの信頼性と自己表現便益が維持されるという点です。低価格帯への対応を、既存の製品ブランドにそのまま背負わせるのではなく、メダリストという別のブランドで行い、その背後に組織としてのホバートを置く。これによって、製品としての意味と、保証する主体としての意味を分けています。
二つ目は、組織ブランドとしてのホバートも、ブランド・ポートフォリオの重要な一部となり、積極的に管理する必要があるという点です。保証する側は、ただ名前を貸すだけの存在ではありません。組織ブランドとして独自の明確なアイデンティティを持ち、育てたり維持したりするべき連想を持つ必要があります。
この事例が示しているのは、ブランドを分けることと、信用を切り離すことは別だという点です。製品としてのポジションは分けながら、組織としての信用は活用する。その役割分担を設計することが、保証付きブランド戦略の重要な仕事になります。
組織ブランドであることを、表現によって明確にする
書籍では、「ホバート発(from Hobart)」や「ホバート・カンパニー(a Hobart company)」という表現によって、エンドーサーが組織ブランドであることを明確にできると説明されています。
これは、単に同じ名称を表示するのではなく、「この商品そのものがホバートという製品ブランドなのか」「ホバートという組織が、この別のブランドを保証しているのか」を伝え分けるということです。ただし、エンドーサーという役割自体に組織ブランドの意味合いが含まれるため、常にこうした表記が必要なわけではないとも述べられています。
つまり、ブランド名の大きさだけでなく、どのような関係として表示するかにも意味があります。同じ名前が載っていても、その名前が製品の主役なのか、背後で信用を与える存在なのかによって、受け取られ方は変わるのです。
06ブランド保証の効果は、組織から個別ブランドへの一方向ではない
個別ブランドの魅力が、保証する側のイメージを高める
ブランド保証というと、信用のある組織が、新しい商品や個別ブランドを支える場面を想像しがちです。しかし、書籍では逆方向の効果も説明されています。個別ブランドの魅力や活力が、エンドーサー側のイメージを高めることもあるということです。
たとえば、ネスレが英国の代表的なチョコレート・ブランドであるキットカットを買収し、ブランド保証を行った際には、チョコレート業界における高い品質やリーダーシップとの結びつきによって、英国でのネスレのイメージが高まったと紹介されています。
この場合、ネスレがキットカットに信用を与えるだけではありません。キットカットが持つ評価や魅力も、ネスレに返ってきます。保証する側と保証される側が、互いのイメージに影響を与える関係になっているわけです。
ポスト・イットと3Mの関係も、双方向で考えられる
書籍では、3Mとポスト・イットについても同様の視点が示されています。3Mによるブランド保証は、ポスト・イットに与えるメリットと同程度のメリットを、3Mにも与えているのではないか、という見方です。ここは、書籍でも推測を含む表現で述べられています。
この考え方に立つと、保証付きブランドは、組織の信用を使うだけの存在ではありません。個別ブランドを育てることが、組織全体の信用や魅力を育てることにもつながり得ます。
組織ブランドが個別ブランドを支え、個別ブランドの価値が組織ブランドにも返ってくる。 ブランド保証を考える際には、この双方向の関係まで含めて捉えることが重要です。
07ブランド間の距離は、「保証の見せ方」によっても変わる
「誰が主役なのか」は、表現の違いでも変わる
ブランド保証がどのような形で示されるかによって、ブランド間の関係性は影響を受けます。書籍では、その影響が非常に微妙な場合もあるとしたうえで、ドレイヤーズと、スニッカーズやスリー・マスケッティアーズなどのマースのキャンディ製品に関するライセンスの事例を紹介しています。
この事例でマースは、ドレイヤーズによる保証と、通常のブランド保証よりも距離を置きたいと考えました。そこで、「ドレイヤーズの提供」という表示によるブランド保証に留めることで合意したと説明されています。
その結果、マースの製品であるという印象が強まり、ドレイヤーズがマスター・ブランドであるという印象を弱めることができたとされています。
ここでのポイントは、どちらのブランド名を載せるかだけではありません。どのような表現で関係を示すかによって、「誰の商品なのか」「誰が信用を支えているのか」という受け取り方を調整していることです。
ロゴを付けることより、役割を伝えることが重要
ホバートの「from Hobart」「a Hobart company」と、ドレイヤーズの「提供」という表現は、いずれもブランド同士の関係を伝えるものです。ただ名前を並べるのではなく、その名前がどのような役割で登場しているのかを示しています。
これらの事例から考えられるのは、保証付きブランドを設計する際には、個別ブランドと組織ブランドのどちらを前面に出すかだけでなく、両者の関係をどう説明するかも重要だということです。
個別ブランドを主役として選んでもらいたいのか。組織ブランドの存在も、積極的な購買理由にしたいのか。それとも、個別ブランドの情緒的便益や自己表現便益への影響を抑えながら、背後で信用を支えたいのか。目的によって、適切な距離の取り方は変わります。
08まとめ:個別ブランドの個性と、組織ブランドの信用をどう両立させるか
保証付きブランド戦略を理解するうえで重要なのは、「信用を共有すること」と「同じブランドに見せること」を分けて考えることです。
個別ブランドには、顧客がその商品を選ぶ理由となる独自の価値や個性があります。一方、エンドーサーには、そのブランドの約束に信頼性を与える役割があります。両者を適切に組み合わせることで、個別ブランドの自由を残しながら、背後にある組織の信用を活用できます。
ただし、その関係は一様ではありません。強いエンドーサーが「小さなドライバー」として購買を後押しする場合もあれば、シャドウ・エンドーサーとして、個別ブランドへの影響を抑えながら支える場合もあります。同じ名称でも、製品ブランドとしての役割と、組織ブランドとしての役割は区別して管理する必要があります。
さらに、信用は組織から個別ブランドへ流れるだけではありません。個別ブランドの魅力や評価が、組織ブランドのイメージを高めることもあります。そして、その関係をどのような言葉や表示で伝えるかによって、誰が主役で、誰が支える存在なのかという認識も変わります。
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