売り値の表現方法を徹底一貫すると商品はコモディティ化に陥らない

皆さんこんにちは!「マーケティングの達人へ!」零株式会社のメルマガ運用担当です!

「競合とサービス内容が似てしまう」「自社の強みを説明しているのに、結局は価格で比較される」「受注を増やそうとすると、値下げをするしかなくなる」。事業をつくったり、サービスを販売したりしていると、こうした問題にぶつかることがあります。

そこで今回ご紹介したいのが、ファイブウェイポジショニングという、「コモディティ化しなくなる事業をつくる」ための、ものすごい経営戦略理論です。

これは、単に競合と違うキャッチコピーを考える理論ではありません。自社がどの価値で選ばれるのかを決め、その価値を実際に提供できるように、人材、予算、商品、業務の仕組みを組み立てていく考え方です。ファイブウェイポジショニングでは、「価格」「サービス」「アクセス」「商品」「経験価値」という5つの要素から事業を見直し、1つで市場をリードし、別の1つで差別化し、残り3つで業界水準を満たすことを理想としています。[1]

ここでいう「コモディティ化しなくなる」とは、誰にも永遠にまねされない商品が完成する、という意味ではありません。顧客から見て「どこから買っても同じ」ではなく、「この価値を求めるなら、この会社を選ぶ理由がある」という状態をつくることです。その違いを顧客に認めてもらい、実際の事業運営で維持していくところまで含めて考えます。

特別な技術や、世界で初めての商品がなければ差別化できないわけではない。すべての面で競合を上回らなくても、独自の立ち位置をつくることはできる。そのために、何を強くして、何に過剰な投資をしないかを決める。私は、この発想が経営者にとって非常に大きな意味を持つと思っています。

今日は、その5つの要素の中でも、特に誤解されやすい「価格」を入念に掘り下げます。出発点にするのは、『競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』の「価格で市場を支配する」というセクションです。

最初に、この章の中心的な考え方をお伝えします。価格で強い会社になることと、いちばん安い会社になることは、同じではありません。 本書が重視しているのは、顧客にとって公正で適正な価格を、一貫して提示することです。ここを理解すると、値下げ、料金表、見積もり、キャンペーン、営業時の交渉まで、見え方が変わってきます。[2]

01ファイブウェイポジショニングがすごいのは、「違う商品」ではなく「違う選ばれ方」を設計できること

コモディティ化を、商品の機能だけの問題として考えない

まず、今回の記事では、コモディティ化を「顧客から見て、各社の違いがわからず、代わりが利く状態」として考えてみます。この見方に立つと、商品そのものが似ているかどうかだけではなく、顧客が何を理由に購入先を決めているのかが重要になります。

たとえば、同じメーカーの同じ商品を販売している2つの店があるとしましょう。商品の性能や品質は同じです。それでも、片方の店では探しているものがすぐに見つかり、料金がわかりやすく、店員に質問すると適切に答えてもらえる。一方の店では、欲しい商品がどこにあるかわからず、広告と店頭の価格が違い、確認にも時間がかかるとします。

この2つの店は、同じ商品を売っています。しかし、顧客にとって同じ購入先ではありません。「何を買うか」は同じでも、「どこから買うか」を決める理由には違いがあります。

このように、ファイブウェイポジショニングを事業づくりに応用する際には、商品だけに差別化の可能性を閉じ込めないことが大切です。提供する商品に大きな違いがなくても、価格の納得感、利用のしやすさ、必要な支援、顧客への接し方などを含めて、どのように選ばれる事業にするかを考えられます。

「競合と違うものを売らなければならない」から、「競合とは違う理由で選ばれる事業をつくる」へ。この転換が、理論を使ううえでの大きなポイントです。

5つの要素は、「全部を頑張るためのチェックリスト」ではない

5つの要素を、自社を見直すための問いに置き換えると、次のように整理できます。以下は、理論を実務で考えるための言い換えです。

要素自社を見直すための問い
価格顧客は、支払う金額とその決め方に納得できるか。
サービス顧客が必要としている支援を、必要な場面で提供できるか。
アクセス顧客は、欲しい商品やサービスに無理なくたどり着き、購入・利用できるか。
商品顧客が求める品質、機能、内容、品揃えを満たしているか。
経験価値顧客は、利用する過程で尊重され、大切に扱われていると感じられるか。

ここで間違えたくないのは、「5つの改善項目があるのだから、全部で最高を目指そう」と考えてしまうことです。理論の基本は、1つで市場支配を目指し、別の1つで差別化し、残り3つで業界水準を満たすという、力の入れ方の選択にあります。[1]

私たちが事業を運営する場面で考えるなら、全項目を同時に最高水準にしようとすると、そのために必要な費用と、顧客が支払ってくれる金額の関係を整理しなければなりません。最も安く、最も高品質で、最も手厚く、いつでも利用でき、特別な体験まで提供する。その約束を並べるだけなら簡単ですが、実現する人員や業務の仕組みがなければ、約束と現実が離れてしまいます。

一方、重点を置かない3つを業界水準にするというのは、粗末にしてよいという意味ではありません。安さを強みにする会社でも、顧客が必要としている品質や最低限の対応を満たさなければ、購入先として選ばれない可能性があります。必要な水準は守り、そのうえで、顧客が特に評価する部分に資源を集中させるわけです。

「何をしないか」が決まるから、事業の強みを維持しやすくなる

この理論を使う意義は、サービスの説明文を整理することだけではありません。採用する人材、教育する内容、整備する業務、増やす機能、削る作業について、判断する基準を持てることです。

たとえば、価格を中心的な強みにしたいのに、顧客ごとに無制限の個別対応を行っていたら、その価格を続けられるかを確認する必要があります。逆に、個別の課題に深く入り込むサービスを主役にするなら、単純な低価格だけで営業し続けることが、その事業の方向性に合っているかを考えなければなりません。

「売れそうだから追加する」「競合が始めたから取り入れる」ではなく、「自社が選ばれる理由を強くするか」で判断する。これができると、施策を増やすこと自体が目的になるのを避けられます。

私がファイブウェイポジショニングを「コモディティ化しなくなる事業をつくるための、ものすごい理論」と考えるのは、差別化を宣伝文句で終わらせず、経営資源の配分と日々の運営にまで落とし込めるからです。

02「価格で市場を支配する」とは、値札を最も低くすることではない

本書が問い直しているのは、「価格=激安」という思い込み

「価格が強みです」と聞くと、多くの方は「競合より安い」という意味を想像するのではないでしょうか。私たちも、価格戦略を考えるときに、競合の料金表を調べ、そこから何円下げられるかという発想になりがちです。

しかし、本書の「価格で市場を支配する」では、価格で優位に立つことを、コストをとことん抑えることと同一視していません。中心にあるのは、顧客に対して、公正で適正な価格を一貫して提示するという考え方です。[2]

ここで重要なのは、「安さには価値がない」という話ではないことです。価格が低いことは、顧客にとって魅力になり得ます。ただ、それだけを価格の価値だと考えると、顧客が料金について感じている別の不満を見落としてしまいます。

たとえば、「結局いくら払うのかわからない」「広告の金額では利用できない」「契約してから追加費用が出てくる」「担当者によって金額が違う」「買った直後に理由もわからず大幅に値下げされる」。こうした問題は、単純に金額を少し下げるだけでは解決しません。

価格の強みをつくるなら、「他社より安いか」に加えて、「料金について、不安や疑いを持たずに購入できるか」まで考える必要があります。

価格には、金額以外にも複数の側面がある

本書では、価格を、適正さ、一貫性、公正さ、信頼性、許容価格帯、価格が与える印象など、さまざまな側面から成る要素として説明しています。価格とは、値札に書かれた数字だけではなく、その数字を顧客がどう受け止めるかまで含めて考えるものなのです。[2]

この考え方を自社の料金設計に置き換えるなら、まず、提供する内容と金額の釣り合いがあります。次に、同じ条件の顧客に対して、同じ考え方で料金が決まっているか。さらに、見積もりや広告で伝えた条件が、契約後も守られるか。追加費用が必要になるなら、顧客が事前に判断できる説明になっているか、といった点も検討対象になります。

つまり、企業が説明すべきなのは、単に「このサービスは10万円です」という数字だけではありません。「10万円で何が提供され、何が含まれず、どのような場合に金額が変わるのか」という、金額の周囲にある条件です。

そして、その説明が実際の提供内容と一致していることが大切です。料金表がきれいでも、契約後の運用が違えば、価格に対する信頼は積み重なりません。

5つの要素の中で、価格だけは顧客にお金を手放してもらう要素である

この章には、価格とほかの要素の違いについて、興味深い指摘もあります。企業は商品やサービス、利用のしやすさ、経験価値を提供できますが、価格については金額を設定する側であり、実際にお金を差し出すのは顧客です。価格だけが、顧客に自分の持ちものを手放すことを求める要素だ、という捉え方です。[2]

この視点に立つと、料金の説明は、単なる事務作業ではなくなります。顧客が自分のお金を支払う判断をするために、必要な材料を渡す行為になります。

企業側には、原価、人件費、設備費、利益など、さまざまな事情があります。しかし、顧客からすれば、「その金額を支払うことで、自分は何を得られるのか」が重要です。企業の都合だけを説明しても、顧客にとっての妥当性が伝わるとは限りません。

だからこそ、価格の説明では、企業がどれだけ頑張っているかだけでなく、顧客が何を受け取れるのか、その条件は何かを明確にしたいのです。

03顧客が求めているのは、「最安値」より「正直な価格」かもしれない

本書のインタビューで重視されていた3つのこと

本書では、主に実店舗で買い物をする消費者へのインタビューから、価格について重視されていた点を、次の順番で紹介しています。[2]

  • わざとつり上げられたものではない、正直な価格で買い物をしていると感じられること。
  • 特売の際には、実際にお得な買い物ができること。
  • よく利用する店で、有名ブランドの商品を比較的安く購入できること。[2]

ここで最初に来ているのは、「世界で最も安い値段で買うこと」ではありません。「この価格は正直なものだ」と感じられることです。

この違いは小さくありません。最安値を探す顧客を想定するなら、企業は競合より1円でも安くすることに集中しやすくなります。一方、正直な価格を求める顧客を想定するなら、広告と請求額の違い、わかりにくい条件、不自然な値引き、納得できない価格差などをなくすことも、重要な改善になります。

本書では、インタビューの中で、底値で買うことに強くこだわる人はほとんどおらず、購入を決める要素として、商品の品質や店舗へのアクセスが価格より優先されるという回答が多かったとも述べています。[2]

ただし、これは本書が紹介している調査対象についての話です。現在のあらゆる業界、あらゆる顧客に、その優先順位がそのまま当てはまるという意味ではありません。自社で活用するなら、「お客様は安さを求めているはず」という思い込みを外し、実際に何を評価しているのかを確かめるための視点として使いたいところです。

「価格が重要」と「最安値が必要」は、分けて考える

価格を気にする顧客は、必ず最も安い商品を買うのでしょうか。ここは、分けて考える必要があります。

たとえば、限られた予算で必要なものを購入する人がいるとします。その人にとって、価格は非常に重要です。しかし、安くてもすぐに使えなくなる商品や、必要な機能が不足している商品を買ったら、買い直しが必要になるかもしれません。予算を大切にしているからこそ、一定の品質を満たすものを選ぶという判断も考えられます。

また、料金を気にする企業担当者が、単純に最安値の見積もりではなく、総額や対応範囲が明確な見積もりを選ぶことも考えられます。理由は、「お金を気にしていないから」ではなく、「予算を管理したいから」です。

したがって、顧客が「高いですね」と言ったときも、その意味を一つに決めつけないことが大切です。予算が足りないのか、内容に対して割高に感じるのか、競合との違いがわからないのか、追加費用が不安なのか。それぞれ、必要な対応は違います。

価格に関する不満を、すべて値下げの要求として扱わないこと。これも、価格戦略を考えるうえで重要なポイントです。

04ロシェルのエピソードが示す、「安さ」より前に守るべきもの

多くの家族を支える買い物客でも、安ければ何でもよいわけではない

この章の冒頭には、ロシェルという女性のエピソードが登場します。彼女は8人の子どもを持ち、家族の食費を支えながら働いている人物として紹介されています。家計において価格は重要ですが、商品の質が悪ければ、いくら安くても買わない。質の悪い肉を買わされたら、その店には二度と行かないと話しています。[2]

このエピソードを、すべての消費者を代表する証拠として扱うことはできません。しかし、事業者の思い込みを見直す材料にはなります。「予算に余裕がない人ほど、とにかく安いものを欲しがる」という単純な見方では、彼女の購買判断を説明できないからです。

ここから私たちが考えたいのは、顧客が節約したいのは、単に目の前の支払額だけなのかということです。無駄な買い物をしたくない、品質の悪いものを買って後悔したくない、もう一度買い直したくない。そうしたことも含めて、お金を大切にしている可能性があります。

顧客の経済状況を見て「安くすればよい」と決めつけるのではなく、何を無駄だと感じ、何にはお金を払うのかを理解する。そのほうが、自社の価格と提供内容を考える材料になります。

広告の価格で売ってくれても、失った信頼は戻らないことがある

ロシェルは、子どものユニフォームを買いに行った際の不満も語っています。広告では9ドル99セントだったのに、店頭では14ドル99セントになっていた。レジで確認し、言い争いになり、最終的には上司が広告の価格で販売するよう指示します。しかし、ロシェルは、その店には二度と行かないと話しています。[2]

ここで問題になっているのは、単に5ドル高かったことだけではありません。広告を信じて来店したのに、その条件が守られず、顧客自身が時間を使って訂正を求めなければならなかったことです。

店側からすれば、「最後には広告どおりの金額で販売したのだから、問題は解決した」と考えたくなるかもしれません。しかし、顧客の側には、価格を確認し、説明し、対応を待つ負担が残ります。次に利用するときも、同じようなことが起こらないかという不安が生まれるでしょう。

この事例をサービス業に置き換えるなら、広告で見た金額、営業担当者から聞いた金額、見積書の金額、契約後の請求額が、同じ条件のもとで一致しているかという問題です。

顧客にとっての「正直な価格」は、安い金額を提示することだけではありません。約束した条件を、顧客が交渉し直さなくても守ることが含まれるのだと読み取れます。

05価格比較に使わせる時間も、顧客にとっては負担になる

「最安値を探さなくても安心して買える」ことにも価値がある

本書には、消費者が正直な価格設定を評価する理由として、価格を比較する時間がないという話も出てきます。複数の店舗を回り、チラシを見比べ、同じ洗剤がどこでいちばん安いかを調べ続けるのは、時間のかかる行動です。忙しい人にとって、必要なものを必要なときに、納得できる価格で買えることには意味がある、と説明されています。[2]

ここで、購入する本来の目的を考えてみたいと思います。洗剤を買う目的は、価格調査をすることではなく、洗濯をすることです。業務を外注する目的も、見積書を比較すること自体ではなく、社内の課題を解決することのはずです。

もちろん、比較によって大きく節約できるなら、その時間を使う意味はあります。しかし、わずかな差を確認するために何時間も必要になったり、条件の違いを読み解くために何度も問い合わせたりしなければならないなら、購入までの負担は大きくなります。

ここから実務への応用として考えられるのは、「他社と比較させないように情報を隠す」ことではありません。その反対です。比較に必要な情報をわかりやすく開示し、顧客が納得して決められる状態をつくることです。

「ここなら、料金について何度も確認しなくてよい」「必要な条件が最初から書いてある」。そう感じてもらえることも、価格に関する信頼の一部として考えられます。

月額が安くても、総額がわからなければ選びにくい

たとえば、架空の広告運用サービスを比較してみましょう。A社は月額8万円、B社は月額10万円です。ただし、A社では、初期設定、クリエイティブ制作、レポート、定例会議などの扱いが見積書から読み取れず、B社では、含まれる内容と追加費用の条件が明記されているとします。

この段階では、A社とB社のどちらが本当に安いのかを判断できません。A社に必要な作業を追加すると総額が上がるかもしれませんし、確認してみたら、すべて8万円に含まれているかもしれません。月額の数字だけでは、比較する材料が不足しているのです。

重要なのは、B社が2万円高いから優れているという話ではありません。A社も条件を明確にすれば、8万円という魅力を正しく伝えられます。逆に、B社も、10万円の内訳が明確だからといって、顧客に必要のない作業まで含めてよいわけではありません。

この例から考えたいのは、価格の伝え方が不十分だと、安さそのものも正しく評価してもらえないということです。安いことを強みにしたい会社ほど、比較できる条件を整える意味があります。

料金のわかりやすさは、高価格サービスだけの話ではありません。低価格サービスにとっても、自社の価値を誤解なく伝えるための重要な設計です。

06値下げを繰り返すと、「お得」ではなく「疑わしい会社」になってしまう

特売価格を見て、通常価格に疑問を持つことがある

企業は、値下げをすれば顧客に喜んでもらえると考えがちです。しかし、本書では、価格を上げ下げする従来の方法によって、消費者が「特価で得をした」と感じるよりも、「普段は高く買わされているのではないか」と感じてしまう問題が指摘されています。[2]

この違いを、仮の商談で考えてみます。最初は30万円だったサービスが、少し迷っていると25万円になり、断ろうとすると20万円になる。業務範囲、契約期間、納期などは何も変わっていないとします。

顧客は「10万円も安くしてもらえた」と喜ぶかもしれません。しかし、「最初の30万円には、どのような根拠があったのだろう」と疑問を持つことも考えられます。さらに交渉すれば、15万円になるのではないか。ほかの顧客には、いくらで売っているのだろう。そうした疑問が出てきても、不思議ではありません。

このように、値引きは、下げた後の価格だけでなく、下げる前の価格の意味まで変えてしまいます。通常価格に納得していた人に、「その価格で購入した自分は損をしたのか」と感じさせる可能性もあります。

だからこそ、値引きの効果を考える際には、その場で受注できたかだけでなく、通常価格への信頼にどのような影響があるかも考えたいのです。

ハイロー戦略は、商品を売るための方法であると同時に、顧客の買い方を変える

本書では、新商品や季節商品を高めの価格で販売し、後から値下げして販売する方法を説明したうえで、価格を上げ下げする「ハイロー戦略」を取り上げています。値下げによって価格に敏感な顧客を呼び込み、在庫の販売にもつなげられる一方、顧客の不信感という問題も生じるとしています。[2]

ここから考えられる実務上の問題は、顧客が「通常価格で買う必要はない」と学習する可能性です。値引きが頻繁に行われるなら、急いでいない顧客は次の値下げを待つかもしれません。交渉すれば毎回安くなるなら、購入のたびに交渉するようになるかもしれません。

その場合、企業は、次の受注をつくるためにも値引きを求められます。そして通常価格で売れなくなったことを見て、「やはり、お客様は安さしか見ていない」と解釈してしまうかもしれません。

しかし、検討すべきなのは、もともとの顧客の性質だけではありません。自社の販売方法が、顧客にどのような買い方を教えてきたのかという点です。

本書の終盤でも、価格による駆け引きは短期的な売上や市場シェアにつながる可能性がある一方、忠実な顧客基盤や長期的な競争優位をつくる助けにはなりにくいと述べられています。[2]

キャンペーンで売れたことと、自社が選ばれるようになったことは違う

ここは、広告や販促を考えるうえでも重要です。キャンペーンで売上が増えたとしても、それだけで、自社の競争力が強くなったとは判断できません。

たとえば、翌月に購入する予定だった顧客が、値引きに合わせて今月購入しただけかもしれません。通常価格でも購入した顧客に、値引きを適用しただけかもしれません。あるいは、値引き期間だけ利用し、通常価格に戻ったら離れる顧客が増えたのかもしれません。

これらは、売上増加の理由として検証したい仮説です。実際には新しい顧客が増え、その後も継続購入してくれる可能性もあります。だからこそ、キャンペーン直後の数字だけでなく、値引きがなかった場合との違いや、その後の購入まで見たいのです。

「値引きで一度売れた」と「この会社から買い続けたいと思ってもらえた」は、別の成果です。コモディティ化から抜け出す事業づくりを考えるなら、後者をどう増やすかが重要になります。

07ウォルマートのEDLPから学ぶのは、低価格だけでなく「いつ買っても納得できる」という価値

特売日を探さなくてもよいという安心感

本書では、ハイロー戦略と対比する事例として、ウォルマートのEDLPが紹介されています。EDLPは、エブリデー・ロー・プライスのことで、日常的に低価格を提供する考え方です。本書は、こうした価格の一貫性によって、顧客の不信感や混乱を軽減できる点を説明しています。[2]

注目したいのは、「あらゆる商品の価格が、あらゆる瞬間に、他店より必ず安い」という話ではないことです。本書では、顧客がクーポンを探したり、底値を求めて町中を回ったりしなくても、欲しい商品を欲しいときに、公正な価格で購入できるという価値が述べられています。[2]

この違いは、価格のポジショニングを考えるうえで重要です。「今日だけ驚くほど安い店」と、「必要になったときに、安心して利用できる店」は、顧客に対して異なる約束をしています。

前者では、特売情報を追いかけることが購入行動の一部になります。後者では、その確認をしなくても利用できる状態を目指します。どちらを事業の中心に据えるかによって、顧客への伝え方だけでなく、仕入れ、販売、販促、利益のつくり方も考える必要があります。

今回の章から学びたいのは、ウォルマートの方法をそのままコピーすることではありません。顧客が毎回、価格を疑ったり、買い時を探したりしなくてよい状態にも、競争力をつくる可能性があるという視点です。

続けられない安さは、事業の強みではなく、一時的な負担になる

一方、安い価格を継続的に提示するなら、それを実現できる仕組みも必要です。本書のウォルマートの説明でも、販売量や仕入れ業者の管理、特売や販促への依存を抑えることと、低価格を維持することが関連づけられています。[2]

ここから、自社の事業に置き換えて考えてみます。売価だけを下げ、必要な作業量も人件費も変わらないなら、同じ件数を販売した場合に残る利益は減ります。「安くすれば仕事が増えるから大丈夫」と考えるなら、増えた仕事を、どの体制で、どの費用で処理するのかまで確認しなければなりません。

サービス業であれば、対応範囲を明確にする、作業を標準化する、情報の受け渡しを整理する、手戻りを減らす、個別対応が必要な部分を分けるといった改善が検討対象になります。低価格を支えるのは、担当者の無制限な頑張りではなく、その価格で継続できる仕事の進め方です。

顧客にとって魅力的でも、企業が続けられない価格であれば、やがて対応品質や提供体制に無理が生じる可能性があります。顧客への約束を守るためにも、利益を確保できる構造が必要です。

価格を強みにするなら、「安くする理由」だけでなく、「その安さを続けられる理由」まで設計することが大切です。

08値引きをしてはいけないのではない。理由と条件を説明できることが重要

「価格の一貫性」は、「永久に同じ価格」という意味ではない

ここまでの話を読むと、値引きや価格変更そのものを否定しているように感じるかもしれません。しかし、今回考えたいのは、価格を一切変えないことではなく、顧客が納得できる形で価格を決め、運用することです。

実務への応用として考えるなら、発注量が増えることで1件あたりの作業負担が減る場合、対応範囲を限定する場合、納期に余裕がある場合などは、異なる条件に応じて料金を変える方法が考えられます。商品であれば、旧モデルや展示品、季節の終了など、値下げの背景を説明できる場合もあるでしょう。

これらと、「相手が迷っているから、同じ内容のまま根拠なく金額を下げること」は、分けて考えられます。価格差に条件の違いが結びついていれば、顧客は判断しやすくなります。

また、価格を上げる場合にも、適用時期や対象、変更される内容を明確にすることが重要です。金額が変わらないことだけでなく、金額の決まり方や変更のルールがわかることも、一貫性のある運用として考えられます。

「安くしても売れる」と「安くしなければ売れない」を区別する

本書では、顧客が喜んで定価で購入する商品やサービスに対しても、企業が無用な値引きをしてしまう問題が指摘されています。また、期待していた高品質の商品が突然大幅に値引きされると、顧客が何か問題があるのではないかと疑う場合についても触れられています。[2]

ここから考えると、値下げを決める前に、「価格が、実際に購入を妨げている要因なのか」を確認したいところです。サービス内容が理解されていないのかもしれません。実績や提供体制に不安があるのかもしれません。必要な機能が足りないのかもしれません。申込方法がわかりにくいのかもしれません。

たとえば、契約後にどこまで対応してくれるかわからず迷っている顧客に、価格だけを下げたとしても、迷っている理由は残ります。反対に、対応内容が整理されて不安が解消すれば、値下げをしなくても判断してもらえる可能性があります。

値引きを否定するのではなく、値引きが解決する問題と、値引きでは解決しない問題を分ける。ここを整理しないまま価格を下げると、利益を減らしても、顧客の不満が解消されないことになりかねません。

10%の値下げでも、必要な販売量は10%増とは限らない

価格を下げる判断では、収益面の確認も欠かせません。ここでは、仕組みを考えるための仮の数字を使います。

販売価格が1万円で、1件販売するごとに必要な変動費が6,000円だとします。この場合、1件あたり、売上から変動費を差し引いた金額は4,000円です。販売価格を10%下げて9,000円にし、変動費が変わらなければ、その金額は3,000円になります。

価格を下げた割合は10%ですが、1件あたりに残る金額は4,000円から3,000円に、25%減っています。固定費や販売構成が変わらないという前提でも、同じ金額を残すには、およそ3分の1多い販売量が必要になります。

さらに、増えた受注に対応するための採用や設備が必要なら、その費用も考えなければなりません。値下げによって問い合わせや受注が増えても、事業として残る利益が減るなら、その施策は見直す必要があります。

価格の強みは、顧客への魅力と企業の継続性が両立していることです。「売れたから成功」だけではなく、「約束した内容を提供し、適切な利益を残しながら続けられるか」まで見ることが重要です。

09「安くなくてもよい」は、「いくらでも高くしてよい」ではない

公正な価格にも、顧客が受け入れられる範囲がある

本書では、消費者が価格を公正だと感じるかどうかについて、許容範囲という考え方が登場します。そして、その範囲は商品カテゴリーや地域によって異なることも述べられています。したがって、価格に対する信頼を大切にすることと、金額そのものを無視することは同じではありません。[2]

顧客が内容に納得しているとしても、支払える予算を超えていれば、購入できない場合があります。また、同じ課題を十分に解決できる別の選択肢が大幅に安ければ、自社の価格差をどう説明するのかという問題が残ります。

そのため、「うちは安売りをしません」という言葉だけでは、価格戦略として不十分です。誰を顧客とし、その顧客が何を重視し、どの内容に、どの程度の金額を支払うと考えられるのかを確認する必要があります。

価格の透明性は大切ですが、透明であれば高くても売れるわけではありません。金額が明確でも、内容が顧客の期待に届いていなければ選ばれません。納得できる価格とは、説明のわかりやすさだけでなく、提供する価値との関係の中で考えるものです。

社内でかけている手間と、顧客が感じる価値は同じではない

ここは、私たちのようなサービス業が特に考えたいところです。社内で時間をかけている作業を、顧客も同じように重要だと考えているとは限りません。

たとえば、何時間もかけて作った資料があっても、顧客が判断に使わず、業務にも役立っていないなら、その資料の作成時間は、価格への納得につながりにくいかもしれません。反対に、企業側では短時間で提供できる情報が、顧客にとって大きな迷いや手間を取り除くことも考えられます。

だからといって、原価を無視してよいわけではありません。原価は、企業が続けられるかを考えるうえで必要です。ただ、原価の説明だけで、顧客にとっての価値が伝わるわけではないということです。

自社の価格を見直すときは、「これだけ時間をかけているから、この金額です」に加えて、「この内容によって、顧客の何が変わるのか」を説明できるかを確認したいところです。

そして、顧客が求めていない部分に過剰な費用をかけているなら、その作業を減らすことが、価格と利益の両方を改善する検討材料になります。

10広告運用や営業支援の事業づくりに、どう落とし込むか

価格を主役にする会社と、別の価値を主役にする会社では、設計が変わる

ここからは、広告運用や営業支援のようなサービスを例に、ファイブウェイポジショニングを事業づくりへ応用して考えてみます。以下は、実在する会社の評価ではなく、設計を考えるための仮のケースです。

まず、価格を中心的な強みにして、アクセスで差別化するサービスを考えます。この場合、顧客が必要としている基本的な業務を、明確で利用しやすい料金で提供することが中心になります。申込方法をわかりやすくし、開始までの流れを整え、対応範囲を標準化する。顧客が「この内容を、この料金で、手間をかけずに利用できる」と理解できる状態を目指します。

一方、サービスを中心的な強みにして、経験価値で差別化する事業なら、顧客の課題に深く入り込み、必要な支援を適切に提供することや、顧客が尊重されていると感じられる関係性を重視する設計が考えられます。この場合、価格は安さで市場をリードしなくてもよい一方、その支援内容に見合う金額として理解される必要があります。

どちらが優れているかを、理論だけで決めることはできません。対象顧客が何を求め、自社がどの価値を継続して提供できるかによって、適した設計が変わります。

大切なのは、主役にする価値と、料金、業務範囲、提供体制が矛盾していないことです。価格を主役にすると言いながら、採算を考えずに無制限の対応をする。個別支援を主役にすると言いながら、営業では最安値だけを訴求する。こうした不一致を整理するためにも、この理論は使えます。

料金表には、顧客が判断するために必要な条件を書く

価格の考え方を実務に落とし込むなら、料金表や見積書を見直すことは、取り組みやすい出発点です。

広告運用であれば、媒体への広告費と運用支援の費用はどのように分かれているのか。初期設定や計測環境の整備は含まれるのか。制作物の範囲や修正回数はどうなっているのか。レポートや打ち合わせは、どのような頻度で行うのか。追加費用が発生する場合、顧客はどの段階で判断できるのか。こうした条件を、顧客が比較しやすい形で伝えることが考えられます。

営業支援でも、単価だけを見せるのではなく、何を1件と数えるのか、対象業務はどこまでか、リストや台本の作成はどう扱うのか、結果をどのように共有するのかなど、内容と料金の関係を整理できます。

ただし、情報を大量に並べるだけでは、わかりやすくなりません。顧客が最初に判断したいことと、詳しく確認したいことを分け、必要な総額と主要な条件を把握しやすくすることが重要です。

目指したいのは、営業担当者が説明しなければ料金を理解できない状態ではなく、説明を受ける前から、顧客が大枠をつかめる状態です。

「きちんとしている」だけで終わらず、顧客が評価する違いまでつくる

ここで、もう一段踏み込んで考えたいことがあります。料金が明確で、約束を守ることは大切ですが、それだけで必ず独自のポジションができるわけではありません。比較対象の企業が同じように対応していれば、それは選ばれるための基本条件になります。

価格で市場をリードしたいなら、対象顧客にとって十分に魅力的な金額や条件を、継続して提供できるかが問われます。別の価値を主役にするなら、その価値の違いを顧客に認めてもらい、価格との釣り合いを理解してもらう必要があります。

「自社として正しいことをしている」と「顧客が競合より高く評価している」は、分けて確認しなければなりません。

コモディティ化から抜け出すには、社内で強みを決めて終わりにせず、顧客から見ても違いがある状態をつくることが必要です。そして、その違いを、担当者個人の力量だけでなく、サービス全体として再現できるようにしたいのです。

11自社の価格戦略を見直すなら、数字を変える前に「顧客の認識」を確認する

最初に決めるのは、「誰にとって適正な価格なのか」

価格について考えるとき、いきなり平均的な相場や競合価格から入る前に、対象顧客を明確にしたいところです。

最低限の機能を低い負担で利用したい顧客と、個別の課題まで深く相談したい顧客では、必要な内容が違います。自分で対応できる部分が多い顧客と、ほとんどを任せたい顧客でも、求める範囲が変わります。

その違いを整理せずに、全員に同じ内容を売ろうとすると、ある顧客には過剰で高く、別の顧客には不足しているサービスになるかもしれません。

したがって、まず「誰の、どの課題に対して、どの範囲まで提供するのか」を決める。そのうえで、その顧客にとって、価格を主役にするのか、別の価値を主役にして価格は納得できる水準にするのかを考えます。

これにより、単に高いプランと安いプランを用意するのではなく、異なる必要性に合わせたプランを設計できます。

「なぜ買ったか」「なぜ買わなかったか」を、値段以外も含めて聞く

次に、顧客の判断理由を確認します。購入した顧客には、最終的に何が決め手になったのか、料金について不安だったことは何か、比較した内容は何かを聞く。購入しなかった顧客には、予算の問題だったのか、内容の問題だったのか、違いがわからなかったのかを、可能な範囲で確認することが考えられます。

ここで、「高いと言われたので値下げする」と短絡的に決めないことが重要です。「高い」という言葉の中に、提供内容が伝わっていない問題が含まれている可能性もあります。反対に、内容に納得していても予算上の制約があるなら、説明を増やすだけでは解決しません。

聞いた結果によって、対応範囲を整理するのか、プランを分けるのか、料金の見せ方を変えるのか、価格を調整するのかを決めます。

ファイブウェイポジショニングを使う意味は、5つの欄に自社の強みを書き込むことだけではありません。自社が伝えたい価値と、顧客が評価している価値の違いを確認し、事業の設計を修正することにあります。

受注件数だけでなく、利益と継続、料金への不満まで見る

価格戦略を変更した後は、受注件数や売上だけでなく、どのような顧客が、どの条件で購入し、その後どうなったのかを確認したいところです。

たとえば、通常価格での受注が増えたか、値引きの交渉が減ったか、案件ごとの利益は残っているか、継続利用につながっているか、料金に関する問い合わせや不満の内容が変わったか、といった観点が考えられます。

問い合わせ件数が増えても、対応範囲についての誤解が多く、受注後に調整が繰り返されるなら、価格の伝え方に改善の余地があります。反対に、料金を明確にしたことで問い合わせが減っても、内容を理解した顧客との商談や継続が増えるなら、その変化も検討する価値があります。

同時に、顧客の期待や競合の提供内容が変われば、自社の違いも見直す必要があります。一度ポジションを決めれば終わりではなく、選ばれる理由が今も機能しているかを確認し続けるわけです。

価格戦略の成果は、安く売れたことではなく、自社が狙った顧客に、納得して選ばれ、利益を残しながら約束を守り続けられることにあります。

12まとめ:「コモディティ化しなくなる」事業は、価格で顧客に何を約束するかを決めている

ファイブウェイポジショニングは、価格、サービス、アクセス、商品、経験価値という5つの要素を通じて、自社がどの価値で選ばれるのかを明確にする理論です。その魅力は、すべてで最高を目指すのではなく、限られた資源を集中させることで、独自の立ち位置をつくろうとする点にあります。[1]

だからこそ私は、これを「コモディティ化しなくなる事業をつくるための、ものすごい理論」だと考えています。商品を変えることだけに頼らず、顧客から見た選ばれる理由と、その理由を支える事業運営を設計できるからです。

そして、今回取り上げた「価格」の考え方は、そのわかりやすい例です。本書が示しているのは、価格を激安という一つの側面だけで捉えず、適正さ、一貫性、公正さ、信頼性まで含めて考えることです。顧客にとって納得できる価格を、一貫して提示することが重視されています。[2]

これを自社で実践するなら、安くすることが必要な場合には、その安さを続けられる仕組みをつくる。商品やサービスの内容で選ばれたいなら、その内容と価格の関係をわかりやすく伝える。そして、どのポジションを目指す場合でも、広告、営業、見積もり、契約、請求、実際の提供内容の間で、顧客への約束が変わらないようにすることが重要です。

「もっと安くしないと売れない」と考える前に、確認したいことがあります。お客様は、本当に金額の低さだけを求めているのか。総額がわからず、不安を感じているのではないか。提供内容との釣り合いが理解できていないのではないか。毎回交渉しないと適正な金額にならない会社だと思われていないか。

その問題を残したまま値下げしても、自社が選ばれる理由は強くならないかもしれません。反対に、価格に対する不安を減らし、提供内容との関係を明確にすることで、値下げ以外の改善余地が見つかる可能性があります。

「他社より安いから買う」だけでなく、「この内容を、この条件で、この会社から買うことに納得できるから選ぶ」。その理由を事業としてつくることが、価格から考えるコモディティ化対策です。

価格戦略は、値札を下げる作業ではありません。顧客に何を約束し、その約束をどのような仕組みで守り続けるかを決めることです。ファイブウェイポジショニングに従った事業づくりは、その約束を、自社が最も強く提供できる価値に集中させるところから始まります。

参考資料

[1] イースト・プレス『競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』
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[2] 同書 第3章「価格で市場を支配する」
本稿の書籍に関する記述は同章に基づき、具体的な事業・料金の仮の例と、実務への応用を交えて解説しています。

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