サステナビリティブランディングとは?パーパス経営を企業価値につなげる実践法言葉先行の発信で終わらせず、経営・現場・発信をつなぐための考え方と手順を整理する
サステナビリティという言葉は広く使われるようになった一方で、「何をどう発信すれば良いのか分からない」「取り組んでいるのに評価につながらない」という悩みも増えています。この記事では、サステナビリティを単発の広報活動ではなくブランドの中核として位置づける考え方を整理し、パーパス経営との関係、グリーンウォッシュを避ける原則、実践ステップ、発信チャネルの使い分け、効果測定、業種別の実践ポイント、よくある失敗までを一つの流れとして解説します。
01サステナビリティブランディングとは
サステナビリティブランディングとは、環境・社会・ガバナンスに関する重要課題への取り組みを、単なる社会貢献活動の報告にとどめず、企業やブランドの存在意義そのものと結びつけて発信し、企業価値の向上につなげる考え方です。従来のCSR広報が「良いことをしているので伝える」という発信中心の発想だったのに対し、サステナビリティブランディングは「何のためにこの事業をしているのか」という問いから出発し、その答えの中に環境や社会への配慮が組み込まれている状態を目指します。
重要なのは、サステナビリティを広報部やCSR部門だけの取り組みにしないことです。事業戦略、商品開発、調達、人事、IR、採用のそれぞれに一貫した考え方が通っていて初めて、外部に発信した内容と実際の企業活動の間に矛盾が生じにくくなります。ブランドとは本来、顧客や社会が企業に対して抱く印象や信頼の総体であり、サステナビリティはその印象を左右する重要な構成要素の一つになりつつあります。
混同されがちな「サステナビリティ経営」との違いも整理しておくと分かりやすくなります。サステナビリティ経営が、環境や社会への配慮を事業運営そのものに組み込む経営の実践を指すのに対し、サステナビリティブランディングは、その実践をどう言語化し、誰にどう伝え、どう受け止められるかまでを設計する営みです。前者が土台、後者はその土台をブランドとして機能させる仕組みという関係にあり、どちらか一方だけでは成立しません。実践が伴わない発信は信頼を損ない、発信が伴わない実践は評価されないまま埋もれてしまいます。
02なぜ今、企業に求められているのか
サステナビリティへの取り組みが企業のブランド価値に直結するようになった背景には、複数のステークホルダーの評価軸が同時に変化していることがあります。ここでは代表的な三つの変化を整理します。
投資家の評価軸の変化
財務情報だけでなく、環境負荷への対応や人的資本への投資、ガバナンス体制といった非財務情報が、中長期的な企業価値やリスクを判断する材料として重視されるようになっています。投資家との対話の場では、重要課題への取り組み状況や進捗を具体的な数値で説明できるかどうかが、企業への信頼度に直接影響するようになってきました。
採用市場での見られ方の変化
就職活動や転職活動をする人が、給与や待遇だけでなく、その企業が何のために存在し、社会にどう向き合っているかを重視する傾向が強まっています。特に若い世代ほど、企業のウェブサイトや採用ページで理念や取り組みを確認する行動が一般的になっており、言葉が具体性を欠いていると、それだけで応募候補から外れてしまうこともあります。
消費者・取引先の変化
一般消費者の間でも、価格や機能だけでなく、その企業や商品が信頼できるかどうかを判断材料に加える動きが広がっています。また、大手企業を中心に、取引先を選定する際の調達基準にサステナビリティへの対応状況を組み込む動きも増えており、直接消費者に商品を販売しない企業であっても、取引先からの要請という形で対応を迫られる場面が増えています。
これら三つの変化は、それぞれ別々に起きているのではなく、互いに影響し合いながら進んでいる点も見逃せません。投資家からの評価が下がれば採用活動にも影響し、採用市場での評判が悪化すれば従業員のエンゲージメントにも波及し、それが顧客対応の質を通じて消費者からの信頼にも跳ね返ります。逆に言えば、一つのステークホルダーに向けた取り組みが、巡り巡って別のステークホルダーからの評価にもつながるということでもあり、サステナビリティへの取り組みを部門ごとの個別対応で終わらせず、企業全体の課題として捉える必要性がここにあります。
03パーパス経営との関係
パーパス経営とは、企業が利益の追求だけでなく「何のために存在するのか」という存在意義を経営の中心に据え、その実現に向けて事業や組織を運営していく考え方です。サステナビリティブランディングは、このパーパスを具体的な行動と発信に落とし込むための重要な手段の一つと位置づけることができます。
パーパスが「なぜこの事業をするのか」という問いへの答えだとすれば、サステナビリティの重要課題は「その答えを実現するために、具体的に何に取り組むのか」という中身にあたります。パーパスだけを掲げても、それを裏付ける具体的な課題設定や行動計画がなければ、抽象的な言葉として消費されてしまいます。逆に、個別の環境対応や社会貢献活動を並べるだけでは、それらがなぜ自社にとって重要なのかという文脈が伝わらず、単発の施策の寄せ集めに見えてしまいます。
両者を結びつけることで、「自社が存在する理由」と「自社が今取り組んでいる具体的な課題」が一本の線でつながり、投資家にも、求職者にも、顧客にも、一貫した物語として伝わるようになります。パーパス経営とサステナビリティブランディングは、それぞれ単独で語るものではなく、互いに具体性と正当性を補い合う関係にあると理解しておくとよいでしょう。
注意したいのは、パーパスを美しい言葉で掲げること自体が目的化してしまうケースです。理念の言葉づくりに時間をかけた結果、耳あたりの良いスローガンは完成したものの、それを実現するための重要課題や行動計画が伴わず、社内外から「結局何をする会社なのか分からない」と受け止められてしまう例は少なくありません。パーパスは掲げた瞬間に完成するものではなく、日々の意思決定や商品開発、人事制度といった具体的な場面で繰り返し参照され、実践を通じて徐々に説得力を持っていくものだと捉えておく必要があります。
04グリーンウォッシュと呼ばれないための原則
サステナビリティに関する発信が増えるにつれて、実態を伴わない誇張表現や、根拠の乏しい主張が「グリーンウォッシュ」として批判される事例も目立つようになりました。一度そうした指摘を受けると、取り組み自体の信頼性だけでなく、企業やブランド全体への信頼にも傷がつきかねません。発信を始める前に、次のような原則を社内で共有しておくことが重要です。
- 「環境に優しい」「サステナブルな商品」といった断定的で曖昧な表現ではなく、対象範囲と根拠を示した具体的な表現を使う
- 数値や進捗を伴わない目標だけを掲げず、現状の水準と目標との差、達成に向けた計画をあわせて示す
- 都合の良い実績だけを取り上げず、未達の課題や今後の課題についても誠実に触れる
- 特定の側面だけを強調して全体像を良く見せようとせず、事業全体への影響も踏まえて説明する
- 第三者による評価や検証の仕組みがある場合は、その範囲と限界も含めて正確に伝える
特に重要なのは、発信のトーンを事実の裏付けと切り離さないことです。良い印象を与えたいという意図が先に立つと、表現がどうしても実態より大きくなりがちです。発信前に「この表現は、聞かれたときに数値や事実で説明できるか」を確認する習慣を持つだけでも、グリーンウォッシュと受け取られるリスクは大きく下がります。
よくある表現の落とし穴として、「削減を達成しました」という結果だけを伝え、何を基準にした削減なのか、いつからいつまでの期間なのか、対象範囲は自社全体なのか一部の拠点なのかといった前提条件を省いてしまうケースが挙げられます。前提条件を明示せずに数値だけを強調すると、後から詳細を確認された際に説明が食い違い、誠実さそのものを疑われる結果になりかねません。数値を出す際は、必ず基準となる時点、対象範囲、算出方法を併記する習慣をつけておくことが、長期的な信頼につながります。
05実践ステップ①:マテリアリティ(重要課題)の特定
サステナビリティブランディングの出発点は、自社にとって本当に重要な課題は何かを特定する作業です。これをマテリアリティの特定と呼びます。あらゆる社会課題に手を広げようとすると、資源が分散し、どれも中途半端な取り組みになってしまいます。
特定にあたっては、二つの軸で課題を評価する考え方が広く使われています。一つは、その課題が自社の事業や収益にどれだけ影響を与えるかという軸、もう一つは、自社の事業が社会や環境にどれだけ影響を与えているかという軸です。この二つの軸を掛け合わせて優先順位をつける方法は、事業への影響と社会への影響の両方を見落とさないための実務的な整理の仕方として役立ちます。
特定のプロセスで押さえたい点
- 社内の役員・部門長へのヒアリングだけで完結させず、顧客、取引先、従業員など複数のステークホルダーの声を集める
- 同業他社や業界団体が公表している考え方を参考にしつつ、自社の事業特性に即した課題に絞り込む
- 特定した課題は一覧化するだけでなく、優先順位と選定理由を経営層が説明できる状態にしておく
- 一度決めた重要課題は固定的に扱わず、事業環境の変化に応じて定期的に見直す
マテリアリティは、この後のすべてのステップの土台になります。ここで課題設定が曖昧なままだと、目標設定も発信内容も的を絞れなくなるため、時間をかけて丁寧に取り組む価値のある工程です。
実務上は、まず候補となる課題を幅広く洗い出したうえで、事業への影響度と社会への影響度をそれぞれ数段階で評価し、マトリクスの形で可視化する進め方が扱いやすいでしょう。評価の点数づけには主観が入りやすいため、一人の担当者の感覚だけで決めるのではなく、複数の部門の担当者が同じ基準で評価し、意見が分かれた項目については議論を重ねて合意形成することが重要です。最終的に上位に位置づけた数個から十数個程度の課題に絞り込み、それ以外は「今は優先度を下げるが、将来的に見直す候補」として記録しておくと、翌年以降の見直し作業も効率的に進められます。
06実践ステップ②:中長期目標と経営への統合
重要課題を特定したら、次はそれを中長期の経営計画に組み込む段階に進みます。ここで陥りやすいのが、重要課題と数値目標だけを別文書として作成し、既存の事業計画とは別枠で管理してしまうことです。これでは、担当部門以外にとって「自分たちの仕事とは関係のない取り組み」に見えてしまいます。
目標を経営に統合するためには、次のような工夫が有効です。
- 重要課題ごとに、達成時期と定量的な指標を設定し、中期経営計画の中に明記する
- 各事業部門の年度目標の一部として、関連する取り組みを組み込む
- 取締役会や経営会議で進捗を定期的に報告する議題として位置づける
- 可能な範囲で、役員や管理職の評価指標にも関連づけ、経営として本気であることを示す
経営への統合が不十分なまま外部への発信だけを先行させると、担当部門が発信内容と現場の実態のギャップに板挟みになり、疲弊してしまうことがあります。発信の前に、まず社内の意思決定プロセスに重要課題を組み込むことが、後の一貫性を保つための土台になります。
ある小売業のH社では、重要課題として掲げた廃棄物削減の目標を、全社共通のスローガンとしてだけでなく、各店舗の月次目標の一項目として組み込み、店長会議で他の販売数値と並べて進捗を確認する運用に切り替えたことで、現場での取り組みが目に見えて進んだという例があります。全社目標を掲げるだけで終わらせず、日常の業務指標と同じ土俵に乗せて追いかける仕組みを作れるかどうかが、経営への統合を実効性のあるものにする分かれ目になります。
07実践ステップ③:ブランドストーリーとしての言語化
重要課題と経営目標が整理できたら、それを外部に伝わる言葉に翻訳する段階に入ります。ここで大切なのは、専門用語や社内文書の言い回しをそのまま使うのではなく、なぜその課題に取り組むのかという背景から、読み手が納得できる物語として組み立てることです。
物語として組み立てる際は、次のような要素を意識すると整理しやすくなります。
- 自社の事業がこれまで何を大切にしてきたのか、その原点
- 事業を続ける中で見えてきた社会や環境との関わり、あるいは課題
- その課題に対して、自社だからこそ取り組める理由や強み
- 現在の取り組みの内容と、今後目指していく姿
この四つを、パーパスを軸にした一つの流れとして言語化することで、単発の施策紹介ではなく、企業としての一貫した姿勢として伝わるようになります。あわせて、言葉のトーンやビジュアルの方向性についても、既存のブランドの世界観と大きくかけ離れないよう調整することが重要です。サステナビリティに関する発信だけが浮いた印象になると、かえって取ってつけた施策のように受け取られてしまいます。
言語化の際は、「〜に取り組んでいます」という活動報告的な言い回しに終始せず、「なぜそれに取り組むのか」を主語に据えて書き直す作業が効果的です。たとえば「省エネルギー設備を導入しました」という一文は、事実の報告にとどまりますが、「創業以来大切にしてきた資源を無駄にしないという姿勢を、設備投資という形で次の世代にも引き継ぐために取り組んでいます」という書き方に変えることで、単発の施策が企業の一貫した姿勢の一部として位置づけられ、読み手の記憶に残りやすくなります。
08実践ステップ④:IR・採用・インナーコミュニケーションへの展開
言語化したブランドストーリーは、一つの媒体だけで完結させず、対象となるステークホルダーごとに適切な形へ展開していく必要があります。特に重要なのが、IR、採用、社内向けコミュニケーションの三つです。
IR向けには、統合報告書や決算説明資料の中で、重要課題への取り組みが中長期の企業価値向上にどうつながるのかを、財務的な観点も踏まえて説明します。採用向けには、採用サイトや会社説明資料の中で、パーパスと重要課題への取り組みを、入社後にどのような形で関われるのかという具体性を持たせて伝えます。抽象的な理念の説明だけで終わると、候補者は自分ごととして受け取りにくくなります。
そして意外と見落とされがちなのが、社内向けのインナーコミュニケーションです。外部への発信内容を従業員が知らない、あるいは共感できていない状態では、取引先や顧客から質問を受けた現場の従業員が答えられず、発信と実態の乖離が露呈してしまいます。社内報や社内ポータル、経営層からのメッセージを通じて、なぜこの取り組みを行っているのかを従業員にも丁寧に共有することが、外部発信の説得力を支える土台になります。
展開の順序も重要です。外部への発表を先に決めてから慌てて社内周知するのではなく、経営層からのタウンホールミーティングや部門長を通じた説明を先に行い、従業員が内容を理解し、質問できる機会を設けたうえで対外発信に踏み切る順序を徹底すると、社内外の発信内容がずれにくくなります。IR、採用、インナーの三つは別々の担当部門が扱うことが多いため、発信内容と時期をすり合わせる横断的な会議体を設けておくことも実務上有効です。
09コミュニケーションチャネル別の発信方法
サステナビリティの発信は、すべてのチャネルで同じ深さ、同じトーンにする必要はありません。チャネルごとに読み手の目的や情報の受け止め方が異なるため、内容の深さと表現の仕方を調整することで、より伝わりやすくなります。
| チャネル | 主な読み手 | 発信の重点 |
|---|---|---|
| コーポレートサイト・特設ページ | 投資家、取引先、求職者、一般 | 重要課題の全体像、方針、進捗の網羅的な整理 |
| 統合報告書・決算資料 | 投資家、金融機関 | 財務・非財務の関連づけ、中長期の企業価値への貢献 |
| 採用サイト・説明会 | 求職者 | 理念への共感、入社後に関われる具体的な機会 |
| SNS・広報発表 | 顧客、一般生活者、メディア | 取り組みの一場面をわかりやすく、誠実に伝える |
| 商品パッケージ・営業資料 | 顧客、取引先 | 商品・サービスに紐づく具体的な事実の明示 |
| 社内報・社内ポータル | 従業員 | 取り組みの背景と自分の業務との関わりの説明 |
共通して言えるのは、どのチャネルであっても、事実に基づかない表現を使わないという原則は変えないことです。チャネルごとに調整するのは「何をどこまで詳しく伝えるか」であり、「事実をどこまで盛るか」ではありません。この区別を曖昧にすると、あるチャネルでは誠実な発信をしていても、別のチャネルの表現が誇張されているといった食い違いが起き、全体の信頼性を損なう原因になります。
更新の頻度もチャネルごとに考え方を分けておくと運用しやすくなります。統合報告書のように年に一度まとめて発信するものは、一年間の変化を俯瞰できる内容にする一方、SNSや商品パッケージのように日常的に接する機会があるものは、大きな方針転換がない限り表現を頻繁に変えず、一貫したメッセージを積み重ねる方が信頼につながります。発信のたびに表現やトーンが変わってしまうと、受け手にとっては「本当のところ何を目指しているのか」が伝わりにくくなってしまいます。
10社員研修・ワークショップの位置づけ
サステナビリティブランディングを外部への発信だけで進めようとすると、現場の理解や共感が追いつかず、看板と実態がずれてしまう原因になります。そのギャップを埋める役割を担うのが、社員研修やワークショップです。
研修やワークショップは、単に方針を説明する場ではなく、従業員一人ひとりが「自分の業務がどのように重要課題とつながっているのか」を考える機会として設計することが望ましいです。営業担当であれば商談での伝え方、製造現場であれば日々の作業の中での気づき、管理部門であれば調達や労務での判断など、部門ごとに関わり方が異なるため、全社一律の内容だけでなく、部門別の対話の場を設けることも効果的です。
- 経営層が自らの言葉でパーパスと重要課題を語る場を設けている
- 一方的な説明だけでなく、従業員が疑問や違和感を発言できる時間を確保している
- 部門ごとの業務と重要課題の関わりを、具体例を交えて示している
- 研修を一度きりで終わらせず、定期的に振り返りの機会を設けている
現場の従業員が納得感を持って理解している状態は、対外的な発信の説得力を支えるだけでなく、取引先や顧客からの質問に対して現場が誠実に答えられる状態にもつながります。研修は発信の準備工程ではなく、ブランディングそのものを支える重要な工程として位置づけるべきです。
実施の形式としては、半日程度のワークショップの中で、前半にパーパスと重要課題の背景を共有し、後半は少人数のグループに分かれて「自分の業務にどう関わっているか」「明日から変えられることは何か」を話し合い、最後に各グループが発表するという流れが扱いやすい構成です。一度で終わらせず、四半期や半期ごとに短時間の振り返りセッションを重ねることで、当初は他人事に感じていた従業員も、徐々に自分の言葉で説明できるようになっていきます。
11効果測定:ブランド好感度・エンゲージメント・採用への影響
サステナビリティブランディングは、短期的な売上への直接効果が見えにくいため、成果をどう測定するかが課題になりがちです。財務指標だけを見ていると「効果が分からない」という結論になりやすいため、複数の指標を組み合わせて、変化の兆しを継続的に確認する姿勢が重要です。
| 指標の分類 | 具体的な確認方法 | 見えてくること |
|---|---|---|
| ブランド好感度・認知 | 定期的な生活者調査、想起率や好感度の推移 | 取り組みが外部の印象にどう影響しているか |
| 従業員エンゲージメント | 従業員満足度調査、エンゲージメントスコア、離職率 | 取り組みへの納得感や誇りが定着しているか |
| 採用への影響 | 応募者数・応募者の質、内定辞退率、面接での言及 | 採用市場での見られ方が変化しているか |
| 対外的な評価 | メディア掲載の論調、外部評価機関からの評価の推移 | 第三者からどう受け止められているか |
| 投資家・取引先の反応 | IR面談での質問内容、取引先からの調達関連の照会 | 非財務情報がどこまで意思決定に影響しているか |
効果は一つの指標だけで判断せず、複数の指標を時系列で追うことで見えてきます。多くの場合、ブランド好感度や採用への影響は半年から一年程度で変化の兆しが見え始め、投資家評価や取引先からの信頼といった経営指標への波及にはさらに時間がかかります。短期間で成果が出ないからといって取り組みを止めてしまうのではなく、指標を継続的に観測しながら、発信内容や実際の取り組みを調整していく姿勢が求められます。
定量的な指標に加えて、営業担当が商談の中で顧客から受けた反応や、面接で候補者から出た質問の内容といった定性的な情報も、記録して蓄積しておく価値があります。数値には表れにくい「どのメッセージが刺さっているか」「どの表現に違和感を持たれやすいか」といった手がかりは、現場からの生の声にこそ含まれていることが多く、次の発信内容を調整する際の重要な材料になります。定量と定性の両方を、担当部門をまたいで定期的に共有する場を設けておくと、効果測定が形だけのものにならずに済みます。
12業種別の実践ポイント(製造業・小売・サービス業)
重要課題の内容や発信の重点は、業種によって大きく異なります。ここでは製造業、小売業、サービス業それぞれの実践ポイントを整理します。
製造業
製造業では、原材料の調達から生産、物流に至るサプライチェーン全体での環境負荷や労働環境が重要課題になりやすい業種です。ある化学メーカーのG社では、自社工場での取り組みだけでなく、原材料の調達先に対しても労働環境や環境対応の状況を確認する仕組みを整え、その過程と結果を統合報告書で具体的な進捗として説明することで、取引先や投資家からの信頼を高めた例があります。自社だけでなく、サプライチェーン全体を視野に入れた説明ができるかどうかが、製造業における発信の説得力を大きく左右します。
小売業
小売業では、商品パッケージの素材や廃棄物の削減、店舗での省エネルギー対応、そして消費者との日常的な接点を生かした啓発活動が重要な要素になります。消費者に近い立場だからこそ、店頭やレシート、アプリといった生活者が日々目にする接点を通じて、無理のない範囲で選択肢を提示する発信が有効です。過度な訴求は敬遠されやすいため、押しつけがましくならない距離感を意識することが重要です。
サービス業
サービス業では、有形の商品よりも人材や提供する体験の質そのものが事業の中核になるため、人的資本への投資や働きやすい環境づくりが重要課題として位置づけられやすくなります。従業員の成長機会や多様な働き方への対応が、そのままサービス品質や顧客からの評価につながるため、外部への発信と、実際の職場環境の改善を並行して進めることが特に重要になります。ある人材サービス業のS社では、育児や介護と両立しながら働く従業員向けの制度整備を進める過程を、完成した制度としてではなく試行錯誤の過程も含めて発信し続けたことで、採用サイトへの応募者からの共感を得やすくなったという例もあります。
いずれの業種にも共通するのは、自社の事業構造から見て説得力のある重要課題を選ぶという原則です。事業内容とかけ離れたテーマを取り上げると、なぜ自社がそれに取り組むのかという必然性を説明しづらくなり、発信の説得力も弱くなります。まず自社の事業がどのような資源を使い、誰にどのような影響を与えているのかを棚卸しすることが、業種に関わらず実践の出発点になります。
13よくある失敗(言葉だけが先行する・現場が置き去りになる)
最後に、サステナビリティブランディングに取り組む中で陥りやすい失敗のパターンを整理します。多くの場合、悪意があるわけではなく、進め方の順序や体制に課題があることが原因です。
- 言葉だけが先行してしまう: 重要課題の特定や社内での合意形成が不十分なまま、見栄えの良いスローガンやビジュアルを先に作ってしまい、後から中身が追いつかなくなるケースです。発信を作る前に、何にどう取り組むのかという中身を固めることが順序として重要です。
- 現場が置き去りになる: 経営層や広報部門だけで方針を決め、現場の従業員に十分な説明がないまま発信を進めてしまうと、顧客や取引先からの質問に現場が答えられず、発信内容への信頼が揺らいでしまいます。
- 単発のキャンペーンで終わる: 特定の時期やイベントに合わせて集中的に発信したものの、その後の継続的な取り組みや報告が途絶えてしまい、一過性の施策だったという印象を残してしまうケースです。
- 広報部門だけの仕事になる: サステナビリティを経営課題としてではなく、広報部門が担当する対外発信の一業務として扱ってしまうと、事業戦略や人事施策との連動が弱くなり、発信内容が実態を伴わないものになりやすくなります。
- 評価や認証への言及が独り歩きする: 外部評価や認証を受けたこと自体を過度に強調し、その評価が対象とする範囲や限界についての説明を省いてしまうと、実態以上に良く見せていると受け取られるリスクがあります。
よくある質問
Q1. サステナビリティブランディングとCSR広報は何が違いますか?
A. CSR広報は活動報告が中心になりがちですが、サステナビリティブランディングは重要課題への取り組みを事業戦略とブランドの核に組み込み、企業価値の向上につなげる考え方です。
Q2. 中小企業でもサステナビリティブランディングは必要ですか?
A. 必要です。取引先の調達基準や採用市場での見られ方は企業規模を問わず影響するため、身の丈に合った範囲で重要課題を絞り、無理のない発信から始めることが現実的です。
Q3. グリーンウォッシュと言われないために、まず何を見直すべきですか?
A. 根拠のない断定表現や誇張された言葉遣いを避け、数値や進捗を含む事実に基づいた発信に置き換えることから始めるとよいでしょう。都合の悪い情報も併記する姿勢が信頼につながります。
Q4. 効果はどのくらいの期間で見えてきますか?
A. ブランド好感度や採用への影響は半年から一年単位で変化が見え始めることが多く、経営指標への波及にはさらに時間がかかります。短期の成果を急がず、中長期の指標で継続的に確認することが重要です。
Q5. サステナビリティ推進部門だけで進めても機能しますか?
A. 機能しにくいです。経営層の関与と現場の実行が伴わないと言葉だけが先行しやすいため、経営企画、人事、広報、事業部門を横断した体制で進めることが望まれます。
サステナビリティの取り組みを、伝わるブランドにする
重要課題の整理から、パーパスに基づく言語化、IR・採用・社内への展開、発信後の効果測定まで、部分的な広報対応だけでは一貫性を保つのが難しい取り組みです。零株式会社では、経営とブランドの両面からサステナビリティの発信設計まで支援しています。
零株式会社へ相談する