画像生成AIの登場で、広告バナーは1日に何十枚でも作れるようになりました。数を出して当たりを探す広告運用にとっては心強い道具ですが、ブランドを持つ会社にとっては、使い方を誤るとブランドそのものを傷つける道具にもなります。
この記事では、ブランドの広告バナーを作るときに当社が守っている手順を、順番どおりに紹介します。誰に見せるかの決め方、素材とロゴの扱い方、AIを使う範囲、トーン&マナー(色・書体・写真の雰囲気・言葉づかいといった表現のルール)の揃え方まで、ブランドの担当者が外注先に確認すべき点としても読める内容です。
AI時代のクリエイティブ生成は、ブランドにとって悪魔にもなる
広告の成果は、バナーの出来に大きく左右されます。同じ商品でも、写真の切り取り方や一言のコピーでクリック率は変わり、何本も出して比べないと当たりは分かりません。画像生成AIは、この「何本も作って比べる」作業の手間を大きく減らしました。
ところが、ブランドにとってバナーは成果を出すための道具であると同時に、お客様がブランドと最初に出会う場所でもあります。SNSのタイムラインで見たバナーの色や写真の質感が、そのまま「このブランドはこういう雰囲気だ」という印象になります。AIで作った1枚がブランドの世界観から外れていれば、その1枚を見た人にとってはそれがブランドの姿です。
速く、大量に作れることは、ずれたものも速く大量に出回るということです。ブランドを長く育てたい会社にとって、AIのクリエイティブ生成が悪魔にもなり得るのはこのためです。
外注先がAIで量産すると、何が起きるか
バナー制作を外注するとき、発注側が気にするのは本数と単価、納期になりがちです。AIを使えば本数は簡単に増やせるので、短納期で大量に納品する外注先も増えています。ただ、ブランドの意図を共有しないまま量産すると、次のようなことが起こります。
- 商品の写真がAIで描き直され、実物と色や形が違うバナーが配信される
- ブランドが使っていない色や書体が混ざり、バナーごとに別のブランドのように見える
- ロゴの文字が崩れたり、比率が変わったりしたまま出稿される
- 写真を無理に引き伸ばし、画質が粗くなる
どれも1枚だけなら小さな違和感ですが、広告は何万回も表示されます。成果が出たバナーほど配信量が増えるので、ずれたバナーが当たってしまうと、そのずれが一番多くの人の目に触れることになります。当社がバナー制作の手順にこだわるのは、ブランドの価値をこうした形で目減りさせないためです。
最初に決めるのは「誰に見せるか」
バナーのデザインに入る前に、まず誰に見せるバナーなのかを決めます。ここで使うのが、マーケティング学者フィリップ・コトラーが示している顧客のペルソナの考え方です。顧客を次の4つの変数で描き、どの人に向けた広告なのかを具体的にします。
| 変数 | 確認すること |
|---|---|
| 地理的変数 | どこに住んでいるか、よく行く場所はどこか |
| 人口統計学的変数 | 年齢、性別、職業、所得、家族構成 |
| 心理的変数 | 何に関心があるか、何を大切にしているか、買う動機は何か |
| 行動変数 | どんな経路で買うか、どのメディアを見ているか、商品をどう使うか |
たとえば同じネックレスでも、「自分へのご褒美に買う30代の会社員」と「恋人に贈るものを探している20代の男性」では、刺さる写真もコピーもまったく違います。誰に見せるかが決まっていないと、バナーは誰にでも当てはまる無難な表現に寄っていき、結局誰の目にも留まりません。
購入までのどの段階で見せるかも決める
コトラーは、顧客が購入に至る道筋を「認知・訴求・調査・行動・推奨」の5つの段階(5A)で表しています。初めてブランドを知る人に見せるバナーと、商品ページまで見て迷っている人に見せるバナーでは、役割が違います。前者はブランドの雰囲気を伝える写真が主役になり、後者は価格や特典、商品の細部が主役になります。
どの段階で人が多く離れているかは、業種によって形が変わります。認知はされるのに調べてもらえないのか、調べたところで買われずに終わっているのか。ブランドの数字を見て、手当てが必要な段階に向けたバナーから作ります。
素材とロゴは、ブランドから預かったものを使う
誰に見せるかが決まったら、ブランドから素材を預かります。お願いするのは次のものです。
- 商品写真、モデル着用写真、イメージ写真(できるだけ高解像度の元データ)
- ロゴの正式なデータ(背景が透明なPNGやSVG、色違いがあればすべて)
- ブランドで使っている色や書体の指定、過去の広告やカタログ
- 使ってはいけない表現や写真の扱い方の決まりがあれば、その資料
商品写真はAIで作り直しません。お客様が広告で見た商品と、届いた商品の印象が違えば、それはブランドへの不信につながります。商品の色や形、質感は、ブランドが撮影した写真で見せるのが原則です。
写真は引き伸ばさず、トリミングで使う
広告バナーは、正方形、縦長、横長と、配信面ごとに必要なサイズが違います。1枚の写真からすべてのサイズを作ろうとすると、縦横どちらかを引き伸ばしたり、小さい画像を拡大したりしたくなりますが、これはしません。
引き伸ばすと、商品の形がわずかに太ったり細ったりします。ジュエリーの石やバッグの金具のように、形そのものが価値になっている商品では、数%のゆがみでも印象が変わります。小さい画像を拡大すれば輪郭がぼやけ、高級感のある商品ほど粗さが目立ちます。
そのため、サイズ展開は写真の一部を切り出すトリミングで行います。正方形なら商品に寄り、横長なら余白や背景を活かす、というように、サイズごとに見せる範囲を変えます。トリミングで必要な範囲が取れない写真しかない場合は、無理に1枚で済ませず、別の写真を使うかブランドに追加の素材をお願いします。
AIを使う前に、トーン&マナーをブランドと決める
当社はAIを使うこと自体を避けてはいません。背景の作り込みや、写真の周りの装飾、構図の案出しなど、AIが役に立つ場面は多くあります。大事なのは、AIに作業を任せる前に、全体の雰囲気をブランドと言葉にして共有しておくことです。
決めておくのは次のような項目です。
| 項目 | 決めることの例 |
|---|---|
| 色 | メインの色と差し色、背景に使ってよい色、使わない色 |
| 書体 | 見出しとそれ以外の書体、太さ、文字の大きさの目安 |
| 写真の雰囲気 | 光の強さ、明るさ、背景の素材感、人物を入れるかどうか |
| 言葉づかい | です・ます調か言い切りか、使う言葉と使わない言葉 |
| 余白とレイアウト | 文字を置く位置、余白の取り方、ロゴの位置と大きさ |
最初に数枚の見本を作ってブランドに見てもらい、方向性が合っているかを確認してから本数を増やします。AIが作った案のうち、決めたトーン&マナーから外れるものは、どれだけ目を引く仕上がりでも使いません。
決めたトーン&マナーの中で、バナーを作り分ける
広告の成果を上げるには、バナーの本数が必要です。ただし、本数を増やすときに変えるのは、決めたトーン&マナーの内側にある要素だけです。
- 変えてよいもの:見せる商品、写真の切り取り方、コピーの切り口、価格や特典の見せ方
- 変えないもの:色の組み合わせ、書体、写真の雰囲気、ロゴの位置と大きさ
こうしておくと、10枚並べても1つのブランドの広告に見えます。どのバナーが成果を出したかを比べるときも、変えた要素が限られているので、「写真の切り取り方が効いた」「価格を見せたコピーが効いた」と理由を特定しやすくなります。
ロゴだけはAIに描かせない
画像生成AIは、文字や記号を正確に再現するのが苦手です。ロゴを含めて生成させると、文字の形が微妙に崩れたり、線の太さや比率が変わったりします。ロゴはブランドの顔そのものなので、わずかな崩れでも見る人に違和感を与えます。
そのため当社では、ロゴを含まない状態でクリエイティブを仕上げ、最後にCanvaでブランドから預かったロゴの正式データを配置しています。AIに任せるのは背景や構図までで、ロゴは必ず元のデータを貼り込みます。配置するときは、決めておいた位置と大きさ、ロゴの周りに空ける余白を守り、背景の色に応じて色違いのロゴを使い分けます。
バナー制作の進め方
| 順番 | やること | ブランドにお願いすること |
|---|---|---|
| 1 | 4つの変数でペルソナを描き、見せる相手と段階を決める | 顧客像や売れている商品の共有 |
| 2 | 素材とロゴを預かる | 写真の元データ、ロゴの正式データ、表現の決まり |
| 3 | トーン&マナーを決め、見本を数枚作る | 見本の確認と修正の指示 |
| 4 | トリミングとAIを使い、決めた範囲でバナーを作り分ける | なし |
| 5 | 最後にCanvaでロゴの正式データを配置する | なし |
| 6 | 出稿前に全体を確認してもらう | 最終確認 |
配信を始めたら、成果の出たバナーと出なかったバナーを比べ、次に作る本数と切り口を決めます。このときも変えるのはトーン&マナーの内側だけです。
よくある質問
Q1. AIを使うと、制作費は安くなりますか?
背景の作り込みや構図の案出しが速くなる分、1枚あたりの手間は減ります。ただ、トーン&マナーを決める打ち合わせや見本の確認、ロゴの配置と最終確認は省きません。費用を下げるためにこの工程を削ると、ずれたバナーが出回る原因になります。
Q2. 商品写真が少なく、サイズ展開に足りません。
引き伸ばしで足りない部分を補うことはしません。トリミングで取れる範囲でサイズを作り、それでも足りないサイズは別の写真を使うか、追加の撮影をご相談します。背景だけをAIで広げる場合も、商品部分には手を加えません。
Q3. ブランドのガイドラインがありません。
なくても進められます。過去の広告やサイト、カタログを見せていただき、色・書体・写真の雰囲気・言葉づかいを一緒に言葉にするところから始めます。決めた内容はそのまま簡単なガイドラインとしてお渡しできるので、他の外注先に頼むときにも使えます。
Q4. ロゴをAIで作り直して、新しい雰囲気にしたいのですが。
ロゴの変更はブランド全体に関わる判断なので、広告バナーの制作とは切り分けてご相談ください。バナーでは、今お使いのロゴの正式データだけを使います。
まとめ
画像生成AIはバナーの本数を増やす力になりますが、ブランドの意図を共有しないまま使えば、ずれた表現が速く、大量に出回ります。成果の出たバナーほど配信量が増えるので、ずれは一番多くの人の目に触れます。
当社がバナーを作るときは、4つの変数で誰に見せるかを決め、ブランドから預かった素材を引き伸ばさずトリミングで使い、AIを使う前にトーン&マナーをブランドと決め、その範囲の中で作り分け、ロゴだけは最後にCanvaで正式データを配置します。
外注先にバナー制作を頼むときは、本数と単価だけでなく、商品写真をAIで描き直していないか、ロゴを生成させていないか、トーン&マナーを誰と決めているかを確認してみてください。
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