メルマガは、送った直後の売上で評価すると、ほぼ確実に「やめたほうがいい施策」に見えます。当社が広告運用を担当しているジュエリーECでも、休眠顧客2,000人にクーポンを3回送って購入は0件でした。それでも、この店ではメルマガを止めずに続けることを決めました。
この記事では、その判断の根拠になった数字と考え方を、月次の運用会議で話した内容をもとに整理します。買う気のない人は掘り起こせないこと、それでも送り続ける理由、どのくらいの間隔で何を送るか、広告とどう住み分けるか。ブランド名は伏せていますが、数字は実際のものです。
休眠顧客2,000人にクーポンを3回送って、購入は0件だった
担当しているのは、ネックレスやピアスを中心に扱うジュエリーブランドの自社ECです。Google広告とMeta広告で新規客を集めていて、月の広告費は50万円前後。この店で今年の秋、しばらく買っていないお客様の掘り起こしを試しました。
対象は、ウィッシュリストに商品を入れたまま購入に至っていない、または長く買っていない方が約2,000人。この方々に1,000円オフのクーポンを付けたメールを、間隔を空けて3回送りました。結果は購入0件です。1件も買われませんでした。
一方で、同じ月に同じ店で送った別のメールは売上を作っています。11月と12月が誕生日のお客様に毎年送っている誕生日クーポンのメールからは、1件で12万円の購入がありました。1粒ダイヤモンドのピアスを紹介した通常のメルマガからも、広告が伸びなかった月に売上が立っています。
| 送ったメール | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| 1,000円オフのクーポン×3回 | 休眠顧客 約2,000人 | 購入0件(開封率は35%前後) |
| 誕生日クーポン | 11月・12月が誕生日の顧客 | 1件で12万円の購入 |
| 1粒ダイヤモンドピアスの紹介 | 登録者全体 | 広告が不調な月に売上を補った |
同じ店、同じ月、同じ配信ツールです。違いは「誰に、何のきっかけで送ったか」だけでした。この差が、メルマガの役割を考える出発点になります。
掘り起こせない理由は、欲しくなる時期をこちらで決められないから
休眠顧客にクーポンが効かなかった理由は、値引き額が小さかったからではありません。1,000円オフが3,000円オフになっても、結果は大きく変わらなかったと見ています。
2年前にネックレスを1本買った人が、今日ジュエリーを欲しがっている確率はとても低い。ジュエリーは、誕生日や記念日、自分へのご褒美といった「きっかけ」があって初めて欲しくなる商品です。きっかけが無い人に値引きを見せても、「安いけど、今は要らない」で終わります。値引きは、買う気がある人の背中を押すことはできますが、買う気そのものを作ることはできません。
運用チームの一人は、これを「2年死んでいたら動かない」と表現しました。表現は乱暴ですが、休眠顧客を店側の都合で呼び戻すのは難しい、という結論は変わりません。掘り起こしは、店がやる動作ではなく、お客様の側で需要が生まれるのを待つ動作です。
ここで「だからメルマガは無駄だ」と結論づけると、誕生日メールの12万円や、通常メルマガから立った売上の説明がつきません。あちらが売れたのは、誕生日という「きっかけ」のある時期に、または商品を欲しくなった人の目に、ちょうど届いたからです。
それでもメルマガを送り続ける4つの理由
1. 欲しくなった瞬間に、店の名前を思い出してもらうため
お客様がジュエリーを欲しくなる瞬間は、店側からは見えません。プレゼントを探し始めた日、ボーナスが出た日、友人の結婚式が決まった日。その瞬間に「あのブランドのメールが来ていたな」と思い出してもらえるかどうかで、検索して競合に流れるか、自店に戻ってくるかが分かれます。
当社は法人向けの事業でもメルマガを定期的に送っていますが、発注が来るのは配信の直後ではなく、相手にニーズが生まれた日の近くです。メールを見た時点では用が無くても、必要になった日に「そういえば」と思い出して連絡が来る。ECのメルマガも同じ動き方をします。送るたびに売ろうとするのではなく、思い出される順番の一番上に居続けることが目的です。
2. 広告が不調な月の売上を支えるため
このジュエリーECでは、11月に入ってから指名検索の広告が急に取れなくなり、広告経由の売上が落ちました。ところが店全体の売上はそれほど悪くなかった。差を埋めていたのが、メルマガ経由の購入と誕生日クーポンのメールです。
広告は、媒体の仕様変更やオークションの変動、季節の需要の波で、月によって成果が倍にも半分にもなります。メルマガは、送れば必ず一定の人数の目に触れるので、月ごとの振れ幅が小さい。広告の谷を埋めるクッションとして、別の集客軸を1本持っておく意味があります。
3. 1つの集客軸に依存する構造を崩すため
運用会議で課題として挙がったのが、この店の集客が指名検索の広告1本に寄っていることでした。指名の広告が止まると、売上も一緒に止まります。同じグループの別ブランドは、検索、カタログ広告、バナー広告、メルマガからほぼ均等に売上が立っていて、どれか1つが落ちた月も全体ではならされています。
メルマガは、すでに登録してくれている人に届くので、広告のオークションにも検索アルゴリズムにも左右されません。自店で完全にコントロールできる唯一の集客経路、と言ってもいいと思います。
4. 1通あたりの費用が、広告のクリック1回より安いため
新規客を広告で連れてくるには、クリック1回ごとに費用がかかります。メルマガは、配信ツールの月額を登録者数で割れば、1通あたりの費用は1円を切ることが多い。2,000人に3回送って0件でも、失った金額は配信ツールの月額の一部だけです。期待値が低くても続けられるのは、この費用構造があるからです。
開封率で「まだ生きているか」を判断する
購入0件だった休眠顧客向けのメールですが、開封率を見ると35%前後ありました。2,000人に送って、およそ700人が開いた計算です。買わなかっただけで、読まれてはいる。この数字が、メルマガを続ける判断の決め手になりました。
開封しているということは、店の名前を認識して、メールを開く程度の関心は残っているということです。「今は要らない」人が700人いる、と読み替えられます。この700人のうち誰かが来月ジュエリーを欲しくなったとき、思い出してもらえる状態は保てています。
逆に、本当に離れてしまった人の見分け方も決めました。配信を3か月続けて一度も開封が無い人は、関心が切れたと判断します。開封が一度でもあれば、購入が無くても配信を続ける。この基準があると、「反応が無いから全部やめる」という判断に流されません。
クーポンを使わずに、後日ふらっと通常価格で買う人もいます。メールの効果は、配信から数日の売上だけでなく、2〜3週間後の売上や、サイトへの直接流入の変化まで含めて見たほうが実態に近づきます。
どのくらいの間隔で、何を送るか
間隔は2〜3日に1回、長く空けない
お客様の需要が生まれる日は分からないので、配信の間隔が空けば空くほど、その日に当たる確率は下がります。月に1回だと、欲しくなった日の直近にメールが届いている確率は低い。この店では、2〜3日に1回を目安に送る方針にしました。
頻度を上げると配信停止が増えるのではないか、という心配は当然あります。ただ、1回の配信で大きく売ろうとしない代わりに、1通1通を軽くする。長文の売り込みではなく、商品1点の紹介や、コーディネートの写真1枚で済ませる。読む側の負担が小さければ、頻度は上げられます。
クーポンに頼らず、商品そのものを見せる
休眠顧客の実験で分かったのは、値引きは需要を作らないということでした。だから配信の中身は、クーポンではなく商品にします。この店で反応があったのは、1粒ダイヤモンドのピアスの紹介、コンビネーションで着けるピアスの提案、誕生石を使った商品でした。欲しくなるきっかけになりそうな切り口を、商品ごとに1つ添えて送ります。
誕生日メールのように「きっかけ」のある配信を仕組みにする
1件で12万円を売った誕生日クーポンは、特別な施策ではなく、毎月その月が誕生日の人に自動で送っている定番のメールです。誕生日は、本人にも周囲にもジュエリーを買う理由が生まれる日なので、クーポンが効きます。同じように、購入から1年後の記念日や、ウィッシュリストに入れた商品の再入荷など、お客様側に理由がある日を配信のきっかけにすると、値引きの効き方が変わります。
広告と同じ商品を出すなら、見せ方を変える
運用会議でもう1つ決めたのが、広告とメルマガの住み分けです。同じ商品を同じバナー、同じ価格の見せ方で広告にもメルマガにも出すと、お客様の目には同じものが2回届くだけで、どちらで買ったのかも分からなくなります。メルマガでは広告と別の写真を使う、金額の見せ方を変える、言葉を変える。それが難しければ、メルマガで紹介する価格帯と広告で押す価格帯を分ける。この店では、広告は5万円前後の商品を軸に、メルマガではそれ以外の価格帯や組み合わせの提案を受け持つ形に整理しました。
まとめ
ECのメルマガは、送った直後の売上で測ると失敗に見えます。休眠顧客にクーポンを3回送って購入0件という結果は、その典型です。買う気のない人を店の都合で動かすことはできません。
それでも送り続ける理由は、お客様が欲しくなった瞬間に思い出してもらうためです。広告が不調な月を支え、1つの集客軸への依存を崩し、1通1円未満の費用で済む。開封率が35%あるなら、その人たちはまだ離れていません。
これから見直すなら、まず直近3か月の開封率を確かめてください。開封があるなら配信間隔を2〜3日に1回まで詰め、中身はクーポンではなく商品1点の紹介にする。広告と同じ商品を出すときは、写真と言葉を変える。この3つから始めるのが順番です。
BRANDING EC / CONSULTATION
広告とメルマガの役割分担まで、一緒に設計します
Rei ECは、ECブランドの広告を専門に扱う零株式会社の広告代理店です。広告の運用に加えて、メルマガやLINEといった既存顧客への配信を含めた集客全体の組み立てを担当します。広告1本に売上が寄っている店ほど、見直す余地があります。初回の監査は無料です。
集客の組み立てを相談する →