学ぶ人・学ばない人は何が違う?『日本で最も人材を育成する会社』を読んで
最近、『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』(酒井穣著、光文社新書439)を読みました。
人材育成について考えるとき、研修制度やOJTの仕組みから考え始めることが多いと思います。けれど、この本の中で特に面白かったのは、人を「弱者と強者」「成功者と失敗者」に分けるのではなく、「学ぼうとする人」と「学ぼうとしない人」に分けて考える、という視点でした。
人材育成に関わる人なら、いろいろと考えさせられる話だと思ったので、印象に残った部分を紹介します。
THREE TYPES人材は3つのタイプに分けられる
私は人間を弱者と強者、成功者と失敗者とにはわけない。学ぼうとする人としない人にわける。
ベンジャミン・バーバー(社会学者)
米国のクリエイティブ・リーダーシップ・センター(Center for Creative Leadership)の元研究員マイク・ロンバルト氏は、組織には学習能力という観点から見て、「積極的学習者(全体の10%)」「消極的学習者(全体の60%)」「学習拒否者(全体の30%)」の3種類の人材がいるとしています(それぞれのタイプの人材の組織における割合については、実証が難しいのであくまでも参考値としてご覧ください)。
ACTIVE LEARNERS積極的学習者(組織全体の10%程度)
練習をしないプロのスポーツ選手に未来がないのと同様に、ビジネスのための勉強をしないビジネスパーソンにも未来がありません。積極的学習者はこうしたプロとしての自覚を持ちつつ、習慣・本性・欲望として物事を学びます。状況に追従するのではなく、自ら学ぶテーマを決めて、学ぶこと自体を楽しめる人々でもあります。
教育心理学の世界では、こうした人々は「拡張的知能観(growth-mindset)」を持っているとされています。彼らは、自分の持っている能力は拡張的で変わりうると信じています。学べば学ぶほど、自分の能力が高まることを実感しているわけです。
成長の実感はそれ自体が喜びであり、その喜びを得たくてさらに学ぶという好循環に入っている人材は、極端に言ってしまえば、放置しておいても十分に育ちます。
積極的学習者は極端に言えば放置(OJT)でも育つのですから、企業間の差はこの消極的学習者にどう対応していくのかで決まると言って過言ではありません。
PASSIVE LEARNERS消極的学習者(組織全体の60%程度)
消極的学習者は、役に立つことが明らかだったり、十分な報酬があったりするような場合だけ気まぐれに学習を行います。学ぶこと自体に喜びを感じる積極的学習者とは異なり、彼らはできれば学習は避けたいと考えています。
先の拡張的知能観に対して、こうした人々が持っているのは、知識は増やすことができても、自分の能力は基本的に変わることはないという「固定的知能観(fixed-mindset)」です。
日本ではとくに受験勉強における偏差値主義が、個人に自分の持って生まれた能力の限界を「劣等感」として印象付けてしまい、結果として固定的知能観を持ってしまうケースにつながっているように思います。
人材育成においては、組織におけるマジョリティーであるこの消極的学習者(60%)の固定的知能観を払拭して、彼らを積極的学習者に変えていくことが重要なフォーカスの一つになります。
ABILITYビジネスパーソンの職務能力は育てられる
では、ビジネスパーソンの職務能力は、固定的知能観にとらわれた人が信じるように生まれつきの才能であり、発展させることはできないのでしょうか。
ビジネスパーソンの職務能力をパソコンにたとえて、図6のような表現をしています。
図6 職業能力
- 基礎力:OS(対人能力・対自己能力・対課題能力)、CPU(思考力・処理力)
- 専門力:ソフト(知識・技術・ノウハウ)
出典:大久保幸夫『キャリアデザイン入門(I)(II)』日経文庫、2006年
この中で、模擬試験で偏差値を用いて測定しているのは、ほとんどCPU(脳)の「処理力」だけです。思考力については、近年流行のフレームワークを用いた思考などを活用すれば、相当高められるという実感を持っている人も多いはずです。
また仮に、処理力に自信がないとしても、たとえばOSとして表現されている対人能力、対自己能力や対課題能力などは大人になってからでも十分に鍛えることが可能です。
楽天CEOの三木谷浩史氏は、著書『成功の法則92ヶ条』(幻冬舎、2009年)の中で、次のように述べています。
「優秀な社員とそうでない社員との差は、冷静に分析してみると、ごく僅かなものでしかない。けれど、そのごく僅かな差が、どういうわけか天と地ほども大きな差になってしまう。その僅かな努力をしない人が、世の中の大多数だからだろう」
LEARNING REFUSERS学習拒否者(組織全体の30%程度)
学習拒否者は創造的なことがキライで、言われたことだけを過去の習慣どおりにこなしたい人々です。この学習拒否者に対して、どれだけ育成のリソースを使っていくかに関しては、簡単には結論が出ません。
学習拒否者に共通して見られる特徴は、目の前にある問題の原因がつねに自分以外の他人にあると考えることのように思われます。そもそも問題を問題として認識していないことも多いようです。
この学習拒否者は、仮に自分が生活習慣病であると診断されても、これまでのライフスタイルを一切変えようとしない人々というと理解しやすいでしょうか。
こうした人々が全人口の30%もいるとは思いませんが、人材育成を担当する者は、社内における学習拒否者は常識的な予想を超えてはるかに多く存在すると考えるべきなのかもしれません。
だからこそ経営判断としては、こうした学習拒否者に貴重なリソースを使うことはできません。逆に、学習拒否者の可能性を最後まで信じてあげることは、人材開発担当者にとっての責務とも言えるでしょう。
(注)俗に、「2・6・2の法則」と言って、人間が集団になるとそこには優秀な人が2割、普通の人が6割、落ちこぼれが2割となりやすいことを指摘した法則があります。積極的学習者、消極的学習者、学習拒否者の割合が、この「2・6・2の法則」にかなり近いことは興味深いです。

酒井穣著。人材を学習への姿勢から捉える視点が印象に残った一冊です。
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この本を読んで面白いと思ったのは、人材育成を「全員に同じ研修を受けてもらうこと」だけで考えず、学習に向かう姿勢の違いから見ている点です。
積極的学習者は自分で成長していきます。一方で、組織の大多数を占める消極的学習者には、学ぶ理由や、能力は変えられるという実感をどう渡すかが問われます。学習拒否者についても、最初から可能性がないと決めつけるのではなく、どこまで向き合うかを経営判断として考える必要があります。
人材育成に関わっている方は、ぜひ本書を読んで、自社のメンバーがどのタイプに近いのか、そしてどのような関わり方なら学ぶきっかけをつくれるのかを考えてみてください。