B2Bサブスク×スモールビジネスの「初期パーティ」論経営者が抜けても潰れない最小チーム構成を考える【代表コラム】
「経営者である自分が完全に抜けても、絶対に潰れない事業の最小構成とは何か」——本コラムは、営業会社と広告会社という2つの法人を経営する筆者が、この問いに対する現時点の答えを整理した経営コラムです。2社は顧客に提供している価値こそまったく異なりますが、ビジネスモデルの構造はよく似ています。すなわち、毎月5万〜15万円くらいの小さなお金を、月額課金のサブスクリプション形式で、多数の法人クライアントから継続的にいただく——世間で「スモールビジネス(スモビジ)」と呼ばれる、労働集約型のB2Bクライアントワークです。
筆者はこの形態の事業を過去4年間、正社員4〜5名という最小体制で営み、単月赤字を一度も出したことがないという「超リスク非テイカー」な経営を続けてきました。そのうえで今考えているのが、リスクを取らないまでも、筆者が全く関与しなくてもこの2社が潰れることなく、年5〜8%程度の成長を続けられる状態をどう作るか、というテーマです。本記事では、その実現手段としての「初期パーティ構成」——経営者(報酬月10万円)・営業1名(固定費30万円)・マーケター1名(個人売上100万円)・経理労務は外注(月3万円)・オフィス(月10万円)で、売上100万円−販管費90万円=営業利益10万円(利益率10%)という月次PL設計を、なぜこの数字なのかという理由まで含めて具体的に公開します。B2Bサブスク型のスモールビジネスを立ち上げたい方、少人数の代理店・代行業の組織設計に悩む経営者の方の、たたき台になれば幸いです。
- 1. この記事の前提──筆者が営む2つの法人と、共通するビジネスモデル
- 1-1. 2社に共通する7つの構造
- 1-2. 「側から見るとコモディティ」という自覚から始める
- 2. なぜB2Bサブスク・スモールビジネスを選んだのか──5つの理由
- 3. ゴール設定──経営者が関与ゼロでも年5〜8%成長する状態
- 4. 【本題】経営者不要で回る広告代理店の初期パーティ構成
- 4-1. パーティメンバー5枠と、それぞれの役割
- 4-2. 月次PLシミュレーション──売上100万円・販管費90万円・利益率10%
- 4-3. どんぶり勘定は「マイナス方向」に倒す
- 5. マーケター1名で個人売上100万円を実現する2つの設計
- 6. 営業1名の設計──テレアポ×営業DX×SFAで「増える速度>減る速度」を作る
- 7. コモディティ市場でこそ「集客ファースト」──役割の重要度序列
- 8. この構成が社会に存在を許される4つの条件
- 9. B2Bサブスク・スモールビジネスに関するQ&A(全8問)
- 10. まとめ:蛇口をひねれば水が出るように、事業が伸びる状態へ
01 この記事の前提──筆者が営む2つの法人と、共通するビジネスモデル
まず前提の共有から始めます。筆者は現在、営業会社(営業支援・営業代行)と広告会社(運用型広告の代理店)という2つの法人を経営しています。この2社は、お客様に提供している価値の中身はまったく異なります。片方は「売れる仕組み」を、もう片方は「集客の仕組み」を提供している会社であり、必要なスキルセットも、現場で動くメンバーの職種も違います。
しかし、一歩引いてビジネスモデルの構造だけを見ると、この2社は驚くほど似ています。そしてこの構造は、世の中の多くの「B2Bサブスク型スモールビジネス」——広告運用代行、営業代行、SNS運用代行、SEOコンサルティング、バックオフィス代行、顧問業など——に、ほぼそのまま当てはまるはずです。
1-1. 2社に共通する7つの構造
筆者の2社に共通するビジネスモデルの構造を言語化すると、次の7点に集約されます。
- 顧客単価は月5万〜15万円程度の「小さなお金」をいただく
- 月額課金のサブスクリプション形式で、契約が毎月継続する
- B2B(法人向け)のクライアントワークである
- 1人の正社員が多数の案件を担当するか、多数の案件に対して多数の業務委託をアサインするかで回す
- 基本は労働集約型ビジネスである(人が働いた分だけ売上が立つ)
- 特定のバリューを発揮するために大きな初期コストがかからない(正味、フリーランスのスキルワーカー1人でも成立する)
- だからこそ参入障壁が低く、市場は側から見るとコモディティ化している
ポイントは6つ目と7つ目の関係です。このビジネスは、極端な話、腕の立つフリーランス1人からでも始められます。設備投資も仕入れも不要で、必要なのはスキルとPCだけ。参入のハードルが低いということは、当然ながら競合も無数に存在し、外から見れば「どこに頼んでも同じに見える」市場、つまりコモディティ市場になります。この記事の議論はすべて、この構造を出発点にしています。
1-2. 「側から見るとコモディティ」という自覚から始める
誤解のないように補足すると、「コモディティ化している」というのは「提供価値に差がない」という意味ではありません。実際には、広告運用にも営業代行にも、担い手による成果の差は歴然と存在します。しかし、発注する側から見たときに、その差が契約前には判別しにくい——これが「側から見るとコモディティ」という言葉の意味です。
この自覚が経営設計を変える:自社のサービスが「選ばれる理由」を、商品力だけに頼って説明できない市場では、「常に新しい仕事を取り続けられる体制」そのものが最大の競争力であり、最大の防御になります。後述する「集客ファースト」の優先順位も、初期パーティに営業を固定費で必ず置くという設計も、すべてこの自覚から導かれています。
つまりこのコラムは、「唯一無二のプロダクトで勝つ」話ではなく、コモディティ市場という現実を受け入れたうえで、潰れない・止まらない事業をどう最小構成で組むかという、地に足のついた(趣味的な)経営論です。
02 なぜB2Bサブスク・スモールビジネスを選んだのか──5つの理由
筆者がこのビジネスモデルを選択した理由は、次の5つです。派手さはひとつもありませんが、「潰れにくさ」に振り切った選択だと言えます。
① 在庫を持たない
物販や飲食と違い、在庫リスク・廃棄リスク・評価損がありません。売れ残りが資金繰りを圧迫することがなく、キャッシュフローが極めて健全に保てます。労働集約であることの裏返しではありますが、「持っているだけでお金が減っていく資産」がゼロというのは、スモールビジネスの生存率に直結する大きな利点です。
② 定期的に一定の収入が入る(ストック型収益)
月額課金のサブスクリプションなので、月初の時点で当月売上の大半が確定しています。単発受注型のビジネスのように「今月はゼロかもしれない」という不確実性がなく、経営判断(採用・投資・値付け)を落ち着いて行えます。精神衛生の面でも、ストック収益の安心感は何物にも代えがたいものがあります。
③ 小資本で始められる
必要なのはスキルとPC、そして通信環境くらいです。借入も出資も受けずに始められるため、失敗したときの損失が限定的で、撤退も身軽です。筆者のようなリスク非テイカーには、この「始めるコストの低さ」と「やめるコストの低さ」が決定的に重要でした。
④ お金をもらう先を分散できる
月5万円×20社という構成であれば、仮に1社が解約しても売上への影響は5%です。大口1社に依存する受託ビジネスが「その1社の都合」で即死しうるのに対し、小口分散のサブスクは売上の急減が構造的に起こりにくい。これは金融でいうポートフォリオ分散と同じ発想です。
⑤ 人が少なければ、広告費も営業費も軽い
養うべき固定費が小さいので、埋めるべき案件数も少なくて済みます。つまり集客・営業にかけるべきコストが構造的に軽いのです。100人の会社が毎月必要とする新規案件数と、5人の会社のそれはまったく違います。スモールであること自体が、獲得コストの面での優位性になります。
筆者の4年間の実績値:この構造のビジネスを、広告会社の正社員2名・営業会社の正社員2名(+筆者)という体制で4年間経営し、単月赤字は一度もありません。大きく張って大きく伸ばすタイプの経営ではなく、「絶対に沈まない船をチマチマ大きくする」タイプの経営です。本記事のパーティ構成論は、この超保守的な経営スタイルの延長線上にあります。
03 ゴール設定──経営者が関与ゼロでも年5〜8%成長する状態
正直に書くと、筆者は「世界を変える」といった大層なビジョンを現状持てていません。その代わりに、いま明確に作りたい状態がひとつあります。それは——
リスクは取らないまでも、経営者である筆者が全く関与しなくても、この2社の法人が潰れることなく、せいぜい年5〜8%程度の成長を続けられる状態。
年5〜8%という数字は、スタートアップの成長率としては論外に低いものです。しかしこの数字には意味があります。「経営者の才覚や馬力に一切依存せず、仕組みだけで再現できる成長率」として現実的なライン、という意味です。カリスマ営業の経営者が現場で受注しまくれば年30%成長も可能でしょうが、それは経営者が抜けた瞬間に止まります。逆に、後述するパーティ構成のように「解約される速度を、新規で増える速度がわずかに上回る」状態を仕組みで固定できれば、理論上は蛇口をひねれば水が出るように、営業人員を増やすことで成長率を積み増していけるはずです。
これをどうやるのか? 細かいKPIまで書き始めると文章が際限なく長くなってしまうので、本記事ではこの状態を実現するための「初期パーティ構成」=最小のチーム編成と月次PLに絞って説明します(筆者自身の頭の整理も兼ねています)。
04 【本題】経営者不要で回る広告代理店の初期パーティ構成
結論です。創業してから今まで考え続けてきて、経営者である筆者が一貫して抜けても、スモールビジネスとして絶対に潰れない形は、広告代理店の場合、次のパーティ構成なのではないかと思っています。RPGでいうところの「最初の街を出るときの4人パーティ」のようなものだとイメージしてください。
4-1. パーティメンバー5枠と、それぞれの役割
経営者(報酬:月10万円)──週1定例でKPIを見るだけ
| 役割 | 週1回の定例でSFA上の全KPIを確認するだけ。案件対応はマーケターに、新規獲得は営業に完全に権限委譲する |
|---|---|
| 固定費 | 月10万円 |
このパーティの最大の特徴は、経営者が「いなくても回る存在」として設計されていることです。案件対応はマーケ社員に丸投げし、自社営業については週1の定例でSFA(営業支援システム)の全KPI——架電数、アポ率、商談化率、受注率、解約数——を見るだけ。それ以外は関与しません。報酬を月10万円に抑えているのは美徳ではなく、「経営者の労働に売上が依存していないこと」をPL上で証明するためです。
営業1名(固定費:月30万円)──半日テレアポ、半日営業DX
| 役割 | 1日の半分をテレアポ(新規開拓)、残り半分をアポ以降のすべての営業DX/SFA運用に充てる |
|---|---|
| 目標 | 最低月1受注、理想は月2受注 |
| 固定費 | 月30万円 |
このパーティの心臓部です。最低でも月1受注、理想は月2受注。これが達成できれば、案件が減る速度を、増える速度が上回ると筆者は見積もっています(算数は第6章で示します)。重要なのは、営業を「売れたら払う変動費」ではなく固定費として常設すること。集客が止まった瞬間に死ぬのがコモディティ市場のスモビジだからです。
マーケター1名(個人売上:月100万円)──多数の顧客で分散して稼ぐ
| 役割 | 広告運用の案件稼働すべて。顧客対応・運用・レポート・定例を担う |
|---|---|
| 売上目標 | 月5万円の直受け20社で100万円、または上位代理店5社からの複数案件で100万円 |
| 固定費 | 月30万円 |
価値提供の担い手です。1人で個人売上100万円を、1社の大口ではなく多数の顧客の積み上げで実現します。この「分散して100万円」が、売上の急減を防ぐ生命線です。実現パターンは2つあり、詳細は第5章で説明します。
経理・労務(外注費:月3万円)──丸投げ
| 役割 | 記帳・給与計算・社保手続き等のバックオフィス全般 |
|---|---|
| 固定費 | 月3万円(外部の税理士・社労士等へ委託) |
この規模で経理・労務を内製する理由はひとつもありません。丸投げ外注一択です。月3万円で専門家に任せ、パーティの脳内リソースはすべて集客と価値提供に使います。
オフィス(家賃:月10万円)──付加価値としての固定費
| 役割 | 採用時の信頼感、メンバーの働く環境、顧客との打ち合わせ拠点 |
|---|---|
| 固定費 | 月10万円 |
フルリモートにすれば削れる費目ですが、筆者はオフィスは付加価値だと考えているので、できれば用意したい派です。月10万円は「事務所の賃料」ではなく「採用力と信頼への投資」として織り込みます。ここは経営者の価値観が出るところなので、削って利益率20%にする選択も当然ありです。
4-2. 月次PLシミュレーション──売上100万円・販管費90万円・利益率10%
上記のパーティをPL(損益計算書)に落とすと、次のようになります。
| 項目 | 月額 | 備考 |
|---|---|---|
| 売上高 | 100万円 | マーケター1名の個人売上(多数顧客に分散) |
| 営業 人件費 | ▲30万円 | テレアポ+営業DX/SFA運用 |
| マーケター 人件費 | ▲30万円 | 案件稼働・価値提供 |
| 経営者 報酬 | ▲10万円 | 週1定例でKPI確認のみ |
| オフィス代 | ▲10万円 | 付加価値としての固定費 |
| その他コスト | ▲10万円 | 経理労務外注3万円+ツール・通信・雑費 |
| 販管費 合計 | ▲90万円 | |
| 営業利益 | +10万円 | 利益率10% |
※ 金額はすべて筆者の経営経験に基づく設計上の目安です。地域・職種・採用市況により変動します。
「利益率10%は低くないか?」と思われるかもしれません。その感覚は正しく、そしてこの低さは意図的な設計です。次項で説明します。
4-3. どんぶり勘定は「マイナス方向」に倒す
この計算は、あえてマイナスな方向にどんぶり勘定しています。実際には、マーケターの個人売上が100万円を超えていく余地、経営者報酬をさらに調整できる余地、オフィスを持たない選択肢など、上振れ要素はいくつもあります。しかし、それらを織り込んだ「うまくいく前提の計画」は、想定外の解約や採用の失敗が一度起きただけで崩れます。
保守的PLの効用:マイナス方向に倒した前提でも黒字が出る構成にしておけば、(1)悪材料が出ても事業が潰れない、(2)上振れはすべて営業増員・待遇改善などの成長投資に回せる、(3)経営者が数字に張り付く必要がなくなる——という3つの効果があります。「現段階の筆者の経営能力で見たときの、経営者がほとんど工数を使わずに利益が出る最小構成」が、この売上100万円・利益10万円のパーティです。
ちなみに当社の場合、広告会社は価値提供に正社員を使い、営業会社は価値提供に業務委託を使っているという違いがあり、後者では「マーケター1名」の枠が「多数の業務委託+ディレクション」に置き換わります。ただし固定費の総額はあまり変えられないので、パーティの骨格はほぼ同じになります。
コモディティ市場ほど、集客が事業を守る。
ペルソナ軸でキャンペーンを設計し、月次PDCAで成果を出す運用型広告。零株式会社の広告運用サービス「でもやるんだよ」が、集客ファーストの実装を支援します。
広告運用の無料相談をする→05 マーケター1名で個人売上100万円を実現する2つの設計
パーティの売上のすべてを担うマーケター1名の「個人売上100万円」には、大きく2つの実現パターンがあります。どちらを選ぶかで、営業のかけ方も業務の型化のしかたも変わります。
5-1. パターンA:月5万円の直受け20社で100万円
エンドクライアントから直接、月5万円前後の小口案件を20社受ける形です。商流が直なので単価あたりの利幅が最も大きく、顧客分散も最大化されます。1社解約しても売上減は5%で済み、「売上の急減が構造的に起こらない」という本パーティの思想に最も忠実な形です。
ただし1人で20社を回すには、業務の徹底的な型化が前提になります。初期設計のテンプレート化、レポートの自動化、定例の形式統一、顧客ごとのカスタム対応の最小化。裏を返せば、月5万円という価格は「型化されたサービスを誠実に提供する」ことへの対価であり、無限のカスタム対応を約束する価格ではありません。ここの期待値調整を営業段階で正しく行うことが、20社運用の成否を分けます。
5-2. パターンB:上位代理店5社から複数案件をもらって100万円
もうひとつは、より上位の広告代理店5社ほどとパートナー契約を結び、各社から複数案件(1社あたり5案件以上が目安)をまとめて受ける形です。商流が一段下がるため単価は直受けより低くなりますが、窓口が5つで済むのでコミュニケーションコストが激減し、案件の供給も代理店側の営業力に乗れるため安定します。
営業のかけ方も変わります。パターンAはエンド企業への広い新規開拓が必要ですが、パターンBは「信頼できる上位代理店を5社開拓して深耕する」というアカウント型の営業になります。立ち上げ期はBで案件を安定させ、徐々にAの比率を上げて利幅と分散を取りに行く、というハイブリッドも現実的です。
| 観点 | パターンA:直受け20社 | パターンB:上位代理店5社 |
|---|---|---|
| 利幅 | 大きい(商流が直) | 小さめ(商流が一段下) |
| 分散度 | 最大(1社解約で▲5%) | 中(1社離脱で▲20%) |
| コミュニケーションコスト | 高い(窓口20) | 低い(窓口5) |
| 案件供給の安定性 | 自社営業力に依存 | 代理店の営業力に相乗り |
| 必要な営業スタイル | 広い新規開拓(テレアポ型) | 少数深耕(アカウント型) |
5-3. 正社員で提供するか、業務委託で提供するか
前述の通り、当社では広告会社が「正社員のマーケターが価値提供する」形、営業会社が「多数の業務委託が価値提供する」形を採っています。正社員型は品質を型で管理しやすく教育投資が資産化する一方、案件数の増減に対して固定費が硬直的です。業務委託型は案件数の波に柔軟ですが、品質管理とディレクションの仕組みが別途必要になります。どちらでもこのパーティは成立します。固定費の総額が大きく変わらない以上、選択基準は「自社のサービス品質をどちらの形で担保したいか」です。
06 営業1名の設計──テレアポ×営業DX×SFAで「増える速度>減る速度」を作る
このパーティの生死を握るのは、実は売上を立てるマーケターではなく営業です。サブスクビジネスは「解約という重力」に常に引かれ続けており、新規獲得が止まった瞬間から売上は単調に減少します。だからこそ、営業1名の仕事を可能な限り具体的に設計します。
6-1. 1日の設計:半分をテレアポ、半分を営業DXに
営業メンバーの1日は、半分を新規開拓のテレアポ、残り半分をアポ獲得以降のすべての営業DX/SFA運用に充てます。後者には、リスト管理、架電ログの記録、商談の議事録化、見積・提案書の作成、失注理由の構造化、ナーチャリング(追客)などが含まれます。「電話をかける人」ではなく、「受注に至るパイプライン全体を1人で運用する人」として設計するのがポイントです。
SFAにすべての活動データが記録されているからこそ、経営者は週1回の定例でKPIを眺めるだけで事業の健康状態を把握できます。営業DXは営業のためであると同時に、「経営者不要」を成立させるための装置でもあるのです。
6-2. 維持と成長の算数:月1受注で維持、月2受注で成長
目標は最低月1受注、理想は月2受注。この数字の根拠は単純な算数です。顧客20社・月次解約率を3〜5%と保守的に見積もると、毎月0.6〜1社が自然減します。つまり——
- 月1受注:解約による自然減とほぼ拮抗し、現状維持できる
- 月2受注:純増1社/月ペースとなり、年間で顧客基盤が数十%規模で積み上がる——ここから年5〜8%成長は十分に射程に入る
そして重要なのは、この受注目標が「超人的な営業力」を要求していないことです。当社が扱うのは月5〜15万円前後の商材であり、一発数千万円のエンタープライズ営業ではありません。ゴリゴリの強強営業マンでなくても、ある程度の営業DX・SFAの運用知見と、蓄積された営業の型があれば、月1〜2受注は必ず実現できる水準だと筆者は信じています。
成長の蛇口は営業人数:この算数が成立するなら、成長率を上げたいときにやることはひとつ——営業を1名ずつ増やすだけです。営業1名あたり「月1〜2受注」という単位生産性が仕組みで担保されていれば、理論上は蛇口をひねれば水が出るように、営業人数に比例して事業が伸びていきます。マーケター側も売上100万円ごとに1名(または業務委託群)を増やせば、パーティを複製する形でスケールできます。
6-3. 経営者が週1定例で見るKPIダッシュボード
「経営者は週1定例でSFAの全KPIを見るだけ」と書きましたが、具体的に何を見るのかも整理しておきます。筆者が想定しているのは、次の8指標がSFA上に自動で並んでいる状態です。逆に言えば、この8つが毎週鮮度の高い状態で揃うように営業DXを組むことが、営業メンバーの「残り半日」の仕事になります。
| KPI | 見るポイント |
|---|---|
| 架電数 | 活動量の絶対値。ここが減ると数週間後の受注が確実に減る先行指標 |
| アポ獲得率 | リストの質とトークの質。低下したらリストソースを見直す |
| 商談化率 | アポの質。ここが低いなら「誰にでもアポを取っている」サイン |
| 受注率・受注数 | 月1〜2受注の達成状況。パーティの生命線 |
| 失注理由の内訳 | 価格か、タイミングか、信頼か。サービス改善への還流元 |
| 解約数・解約理由 | 「減る速度」の実測値。想定の月次3〜5%とのズレを監視 |
| 顧客数・MRR | ストックの積み上がり。前月比で純増しているかだけ確認 |
| マーケター稼働率 | 受注しすぎて品質が壊れる手前で、次の採用判断を出すための指標 |
この定例は30分で終わります。数字が想定レンジ内なら何もしない、レンジを外れたら原因を1つだけ特定して手を打つ——経営者の仕事はそれだけです。「経営者不要」とは経営を放棄することではなく、経営の仕事を週30分のモニタリングまで圧縮する設計のことだと筆者は考えています。
07 コモディティ市場でこそ「集客ファースト」──役割の重要度序列
コモディティ化したB2Bサブスクの商売において、筆者の性格で優先順位をつけると、役割の重要度は次の序列になります。
自社営業する人 > 自社広告をやる人 > 顧客対応する人 > 経理・労務 > 資金繰り
※「自社広告をやる人」の販管費は第4章のPLには含めていません。余力が出た際の次の投資先です。
顧客対応(=サービス提供の品質)より営業が上、という序列に違和感を覚える方もいるかもしれません。もちろんこれは「品質はどうでもいい」という意味ではなく、品質は当然の前提としたうえで、限られた経営資源の追加配分先として何を最優先するかという話です。側から見ればコモディティ化している商品を扱う以上、突き詰めると営業力——常に仕事を取れる状態を維持する力——が事業の生死を最も左右する、というのが筆者の結論です。
実際、筆者自身もこの経営計画を実現するために、ここ1年は「筆者が完全に消え失せても集客が止まらない」状態を作るべく、自社営業と営業DXの知見にほとんどの脳のリソースを費やしてきました。プロダクトの改善でも、資金調達でもなく、まず集客の仕組み化。コモディティ市場のスモールビジネスにおいては、これが最も割に合う投資だと考えています。
なお、序列の2番目に「自社広告をやる人」が入っているのは、テレアポというアウトバウンドの蛇口に加えて、広告・SEO・コンテンツというインバウンドの蛇口を増やせれば、集客の分散(=集客チャネルのポートフォリオ化)がさらに進むからです。売上を分散させるのと同じ思想で、集客経路も分散させる。これが次のフェーズの投資になります。
08 この構成が社会に存在を許される4つの条件
最後に、このパーティ構成が長期的に機能するための条件を整理します。裏を返せば、これらを満たせない場合、コモディティ市場のスモールビジネスは静かに退場していくことになります。
- お客様をしっかり選び、自社のこだわりのサービスを提供できること。月5万円の型化されたサービスに対して、正しい期待値を持ってくれる顧客だけと契約する。合わない顧客を無理に取ると、マーケターの工数が壊れ、パーティ全体が崩れる
- お金をもらう先をなるべく分散し、売上の急激な減少に備えること。特定の大口顧客への依存は、短期の売上と引き換えに事業の生殺与奪を他社に渡す行為になる
- 固定費として自社営業を置き、常に仕事を取れる状況を整備しておくこと。「案件が減ってから営業を始める」のでは遅い。営業は保険であり、成長のエンジンでもある
- 「自社のサービスが良い」×「お客様も良い」の掛け算を成立させること。この掛け算が成立していれば、紹介や継続によって顧客は自然に増えていく
そして、この4条件すべての土台にあるのは、結局のところ自分たちが提供しているプロダクトの独自性や強みと、その強みを活かせる顧客だけを見極める眼、そしてそのプロダクトを維持し続けるための「自社営業」の巧みさだと思っています。コモディティ市場であっても——いや、コモディティ市場だからこそ、この3つの掛け算だけが、小さな会社が社会に存在し続けることを許してくれるのではないでしょうか。
09 B2Bサブスク・スモールビジネスに関するQ&A
10 まとめ:蛇口をひねれば水が出るように、事業が伸びる状態へ
本コラムでは、B2Bサブスク型スモールビジネスにおいて「経営者が全く関与しなくても潰れず、年5〜8%成長する最小チーム構成(初期パーティ)」を、筆者の4年間の経営経験をもとに整理しました。要点を振り返ります。
- このビジネスの構造は月5〜15万円×月額課金×B2B×労働集約×小口分散。参入障壁が低いぶん、市場は側から見るとコモディティ化する
- 選んだ理由は①在庫なし ②ストック収益 ③小資本 ④収入源の分散 ⑤営業・広告コストが軽いの5つ。「潰れにくさ」への全振り
- 初期パーティは経営者10万・営業30万・マーケター30万・オフィス10万・その他10万=販管費90万に対し、マーケター1名の分散売上100万。利益率10%はマイナス方向のどんぶり勘定
- 営業は半日テレアポ×半日営業DXで最低月1受注(維持)、理想月2受注(成長)。「増える速度>減る速度」を仕組みで固定する
- 成長の蛇口は営業人数。単位生産性が担保されていれば、営業を増やすほど事業は伸びる
- 優先順位は集客ファースト:自社営業>自社広告>顧客対応>経理労務>資金繰り
大層なビジョンがなくても、リスクを取らなくても、「お客様を選び、こだわりのサービスを提供し、収入源を分散し、自社営業を止めない」という当たり前を仕組みに落とし込めば、小さな会社は社会に存在し続けることができる——これが、単月赤字ゼロで4年間チマチマやってきた筆者の、現時点での結論です。同じようにB2Bサブスクのスモールビジネスを営む方、これから始める方の頭の整理に、このパーティ構成論が少しでも役立てば嬉しく思います。
なお、本文で繰り返し触れた「集客ファースト」を広告面から実装するパートナーをお探しの場合は、零株式会社の運用型広告サービス「でもやるんだよ」がお力になれます。コトラー理論×ペルソナ設計でキャンペーンを立て、月次PDCAで成果に向き合う——まさに本記事の思想を、広告運用という形でクライアントに提供しているサービスです。
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